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〈リポート〉10周年記念第39回講座「SDGsってなあに?ーこれからのライフスタイルを考えるー」

2022.08.21 | カテゴリー:講座の記録

【2022年5月21日(土) 松本市勤労者福祉会館】

コロナ感染対策で延期になっていた講座「SDGsってなぁに?-これからのライフスタイルを考える-」は5月21日に無事開催することが出来ました。当日は会場参加者(約30名)の他、オンライン(約30名)でもご参加いただきました。

信州自遊塾は、2011年に起こった東日本大震災、原発事故を契機に「これからの人間の生き方を考えよう」と発足しました。科学技術の進歩に支えられて発展した文明は、人間社会に格差を生み出し、地球規模の気候変動は自然界に脅威を与えています。 今回の10周年記念講座は、世界中で取り組みが始まっているSDGs(持続可能な開発目標)をテーマに、「本当の豊かさとは何か」を原点に戻って考えようと考え、企画しました。 

第1部「SDGsってなぁに?」

今回は、ノンフィクションライター・環境ジャーナリスト高橋真樹さんにお越しいただき、「SDGsってなぁに?」と題してお話しいただきました。高橋さんは近著では『日本のSDGs それってほんとにサステナブル?』(大月書店)を出版されています。以下、内容を要約します。

今のニーズを優先して将来の可能性を奪ってはならない

現在、地球の資源を世界で1.7個分使っている。1年で地球の資源1個分であれば回復されるといわれているが、すでに未来の分の資源を使っている。日本の人たちはどのくらい使っているのかというと、日本では地球2.9個分の資源を使っている。日本の人たちは今の持続不可能な世界を作った責任がある。この状態が50年以上も続いている。その結果として、気候変動が起こっている。地球温暖化(気候変動)は10年前の予想をはるかに上回るスピードで進んでいる。ヨーロッパでは気候危機、気候崩壊などとも呼ばれている。

例えばアリが絶滅したら困ると思っている人はどのくらいいるか?実はアリは害虫の数を抑えたり、植物の種子を拡散したりという生態系サービス(循環型社会)を無償で行っている。アリやハチが絶滅したら人類は生きてはいけない。こういった生態系サービスがなければ収穫できる作物もかなり減る。私たちは自分たちが生きている自然界のことを殆ど知らないのではないか。私たち自身が生態系の一部であり、私たち自身が問題を産み出して地球を傷つけている。このままではいけないと、そこで生まれたのがSDGsである。

SDGsが求めているもの ―キーワードは「トランスフォーメーション(大転換)」と「誰一人取り残さない」―

SDGsは17のゴール(目標)と169のターゲットがある。現在、この概要は小学校でも扱っている。190か国以上の国が合意してできたものだが、途上国と日本では課題も違う、国連が許可しなくてもマークが使えるなど、様々な課題を抱えているものではあるが、SDGsができるまでの背景には大きな成果もある。方向性の確認には使えるし、それをどう使うかは自分たちで感がることができる、コンパスのようなものだ。

これまでは環境問題、貧困の問題、ジェンダーの問題など、それぞれの専門分野でばらばらに考えていたことを、すべての問題はつながっていると捉えている点でSDGsは画期的である。(それゆえにゴール・ターゲットが多い)
17のゴールはただ単純に並んでいるわけではない。すべてのゴールは組み合わさってできている。1番が貧困問題だから、貧困のことだけをやればいい、というわけではない。そのようにとらえている限り本質的なことは解決しない。
ハイブリットカーは低燃費だといわれているが、ガソリンも使うしCO2が出る。これは今までの延長で大転換とは言えない。大転換するために電気自動車をという動きもあるが、電源を使う。使う電気を再エネにする必要がある。しかし、そもそもマイカーがなくても暮らせるように、カーシェアリング、徒歩や自転車で回れる街づくりや、そもそもマイカーがなくても暮らせるように、公共交通機関を充実させる街づくりをしていかなければならない。

本物のコストを意識することも必要である。「安い」とは何か。例えば100円以下のトマト缶。トマト缶に使われるトマトの農薬はどうなのか、また作る人の労働環境、賃金はどうなっているのか。安い服も同じで、その背景を考えないと持続可能とは言えない。
日本の中ではどうなのか。例えばラベルのないペットボトルが売られているがこれは本当にエコなのか。確かにラベルを付けないことでその分のプラスチック使用料はマイナスになるが、そもそも水をペットボトルで売ることに問題がある。ペットボトルと水道水を比較するとCO2は50倍、料金は500~1,000倍かかる。そしてペットボトルの処理費用は自治体が担っている。これは本当の意味でトランスフォームなのか、考える必要がある。
また原発はCO2を出さないからSDGsだと思う人がいるかもしれないが、使用済み核燃料の問題をはじめ、原発には問題が山ほどある。何かを使って何かがマイナスになってはならない。

消費者として

安すぎるものは何か理由がある。(先述のトマト缶然り)石炭火力は安いといわれているが、石炭を焚くことで大気汚染が生じ病気になる人がいて、気候変動が悪化している。こうしたことが明らかになってきた。そういったことを含めると石炭の値段は実は高いのではないか。そこで儲けてきた人たちは、病気になった人や気候変動難民にコストを押し付けてきた。「安い」ことを選び続けて、結局みんなが損をする世界になってしまった。それをやめる。

最近、日本の某バーガーショップがSDGsを謳い始めた。実は、ヨーロッパでは10年前からそういったマークが付けられていた。なぜヨーロッパでは10年前から取り組んでいたのに日本ではここ最近なのか。これはヨーロッパの消費者が、大量消費の象徴でもある企業がちゃんとSDGsに取り組んでいるのか、と厳しくチェックしたからだ。日本の消費者も声を上げがんばらないといけない。

個人がやっても意味がないのでは?

社会のシステムを変えないと意味がないのではないか、という意見もある。今の世界の危機的な状況を変えるには、個人レベル、地域レベル、行政レベルで全てが変わらないといけないが、地域や行政に影響をあたるのは個人の行動と声である。こういった例はいくらでもある。様々なレベルで、できることを全部やっていく。

個人でできることの一つに「マイボトル」がある。これさえすれば変わるということでもない。しかし誰でもできることからやらなければならない。これを常識にしていく。ペットボトル一つとってもすべての課程でエネルギーを要しCO2を出し、ごみとなっているのか。リサイクルするにもエネルギーを要する。簡単に100円で買えるが、これだけの負担を次の世代に押し付けている。mymizuというアプリでは、給水スポットがアプリ上でわかるのでマイボトルを持っていれば給水スポットがわかる。アプリ上でどのくらいペットボトルを減らせたのかわかる仕組みにもなっている。余分なエネルギーを使わずに、常にあるものを組み合わせて新しい提案をしているものの一つである。

地域自治体の例では、京都府亀岡市では「レジ袋禁止条例」というレジ袋有料化より強い条例がある。これは地域の川が汚れたことをきっかけに自分たちでなんとかしようと、自治体を動かした例である。アメリカのバーモント州では、生ごみ排出禁止となっており、生ごみはすべてコンポストで処理している。これらの例は、個人の声が議論を呼び、生ごみを処理するコンポストを(個人でも共同でも)あるという当たり前になっている社会が後押しになった。このように一人ひとりの地道な取り組みの結果である。

暑さ寒さは我慢しなければいけないのか?

日本の住宅の断熱性能は極めて低い。日本の9割の家はほぼ無断熱である。それゆえ寒い。先進国の中で断トツに断熱性が低く、ヒートショックで亡くなる人も多い。事実を踏まえて行動を起こさないといけない。窓の外側で熱を遮る(緑のカーテン)や窓の内側に窓を付ける二重窓(内窓)などは大変有効である。

白馬高校では、生徒たちが暑さ寒さを何とかしたいと、学校を動かしてDIYで(大工さんに協力してもらい)教室を断熱した。自分たちで行動を起こし、成果を体験した。この例がきっかけとなり、白馬南小学校で小学生が同じように断熱改修するということも行われた。

SDGsは暑さ寒さをなんとかする、というだけではなく、こういったプロジェクトは教育効果やエネルギーの省エネなど、様々な要素が結びつけられるものである。それと同時に子どもたちの多様な提案に、大人たちが一緒になって、どうしたら変えられるのか取り組んだ結果である。

常識は変わる

大人になると、やろうとするよりできない理由を探しがちであるが、できる方法を一緒に探していく社会にしていかないと、乗り越えられない。時代は転換期である。20年前には考えれられなかったことが起きている。ガソリン車が売れなくなる時代が来るとは20年前思っていなかったのではないか。セクハラパワハラも、まだまだなくなっていないが、告発されることが増えた。「いけないことだ」「変えなければいけない」という連鎖が起こっている。変わりたくない人が批判するが、常識は変わる。10年後20年後、今批判されていることが常識になったりもする。だから行動を起こして、多くのひとに広げていきたい。

第2部 「自分流の豊かな暮らしを選んで」

第2部は高橋さんの他、県外から長野県に移住して来られたお2人にも登壇していただきました。お2人とは、松本の書店兼喫茶・宿「栞日」などを営む菊地徹さん・安曇野で子育てしながら農家を営む東加奈子さんです。お2人からは「移住者の実践談」「豊かな暮らしとは何か」をテーマにお話いただいた後、高橋さんを交えディスカッション・質疑応答を行いました。最後は、会場からの質問に答える形でSDGsを更に考えるディスカッションを行いました。

東加奈子さん

東さんは現在安曇野在住。果樹農家で働きながら、無農薬で米や野菜を生産するsamasama farmを営んでいます。
東さんは、東京でOLをしていた時から安曇野が好きで旅行では良く遊びに来ていたそうです。将来的には安曇野で生活したいと考えていたそうですが、東京での生活への疑問が大きくなり、移住計画を大幅に前倒し実行しました。満員電車に揺られる毎日、消費しかすることがない都会の生活。生産する生活がしたいと強く思ったそうです。

安曇野市の地球宿のオーナー増田望三郎さんから、ウーフ(リンゴ栽培のおぐらやま農場)を勧められ安曇野での生活を始めました。住居と食事が無料とは言っても、給料が全く支給されないことは衝撃でしたが継続しました。その原動力の一つが、そこで収穫されたリンゴがとてもおいしかったこと。農作物の味はそこで働いている人の幸福度に比例すると思われたそうです。
安曇野に住んでみて、感じる東京との違いは、ここには土が近くにあること。ここでは人と人との助け合いが必要なので自然とコミュニケーションが豊かになる。毎日は忙しいが人との交流がある暮らしは気持ちがいい。

菊地徹さん

静岡市出身の菊地さんは現在、松本市在住。松本との縁は扉温泉明神館に就職したことが始まりだったそうです。その後、2013年に市内で書店兼喫茶の”栞日”を開業したほか、2020年からは市内の銭湯も引き継いで運営されています。
菊地さんは学生時代にスターバックスコーヒーでアルバイトをした際、職場・家庭に次ぐ「サードプレース」の考え方に共感され、自由で創造的な場所を提供したいと考え書店兼喫茶を始められたとのこと。”栞日”を通じ「場を開き街を耕していきたい」とお話されました。

会場からの質問

地域の開発とブレーキのバランスはどう考えたらよいですか?

高橋さん:SDGsはつまるところ、サステナブルな社会・生き方を考えること。”開発”は善なのか悪なのかと考える必要はない。開発の仕方をサステナブルにしていけばよい。建物建築の際は、100年間使うつもりで計画すべきなのにそうなっていない。
日本では、意味も分からずただSDGsバッジをつけている人が多すぎる。ヨーロッパでは根拠の無いエコマークの使用は禁止されている。

私たちは具体的には明日から何をすれば良いですか?

高橋さん:銭湯を利用しましょう(笑)。農業も持続可能な農地利用を考える必要があり、有機農業を増やしていかないといけない。”どうせ変わらない”と諦めてはいけません。”変えられるんだ”と信じて一人一人が行動することが大切です。

塾長からの質問

菊地さん、東さんはどうして生活を変えられたのですか?

菊地さん:変えられたとは思っていません。自分の書店があることで、街が明るくなったり、少し良くなれば良いなと思っている。自分の影響力は限界があることは良くわきまえているので、小さなコミュニティを提供し、出会った人たちがエネルギーチャージ出来れば良いと思う。
東さん:東京での東日本大震災の体験が伏線になっていると思うが、今でも安曇野移住を思い切って決断で来たなあと不思議に思っている。私には満員電車に揺られているときに、”もう無理だ”と確信する時があった。皆さんにもそういうタイミングが来れば、その時に行動すれば良いと思う。経済的には厳しい生活だが、農業の目的はお金を稼ぐことが第一目的ではない。豊かな土を後世に残したいと思っている。有機農業は難しい。自分で生産してみると、スーパーで売っているようなきれいな野菜は出来ない。私が有機農業を実践することで、そのことを皆さんに知ってもらいたい。

感想

SDGsって最近良く耳にするけど、何を目指しているの?どの様に理解したらよいの?SDGsを毎日の生活にどのように取り入れたらよいのか分からない!等々の疑問から企画を始めた本講座でした。
高橋さんからはSDGs公表の経緯から始まり、目指していることや私たちがやらなければならないことを分かりやすくご説明いただきました。「SDGsの推進は行政だけでもダメ、生活者の活動だけでもダメ。両方向から進めていかなければならない」とのお話が印象的でした。私も自分でやれることを少しずつ確実に増やしていきたいと思います。
東さんや、菊地さんも夫々の方法で持続可能な農業や人とのコミュニケーションの姿を模索し実践されている方です。お2人の実践者としての説得力あるお話からは大変良い刺激をもらいました。
Let`s start today!


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