【2021年3月27日(土) 松本市中央公民館】
「日本を守るってナニ?」~ゼロ戦からミサイルへ~には、ZOOMを利用してのオンライン参加者も含め49名の皆様にご参加頂きました。
世界的な自国第一主義とコロナ禍の中、日本国内でも現在の政治や社会情勢と、戦争に向かっていた当時との間に類似点があるのではないかという声が高まっています。「戦争」を振り返り、「国を守るとは何か」「平和とはなにか」を考える機会を持ちたいと今回の講座の企画に至りました。
第1部 映画上映
原田要 平和への祈り~ゼロ戦パイロットの100年~ ドキュメンタリー映画(2017年)
日本は昨年2020年に戦後75年を迎えました。戦争体験者がどんどん少なくなり、その生の声を聴く機会は日に日に減ってきています。今回は2017年に長野県で制作された映画を視聴することで、当時を振り返る足掛かりとしました。当日はこの映画の監督を務められた宮尾哲雄さんにもご登壇をお願いすることが出来ました。
映画のタイトルにもなっている原田要さん(2016年5月没、享年99歳)は、太平洋戦争中に日本海軍の主力戦闘機「ゼロ戦」に搭乗し、多くの敵機を撃墜したパイロット。”殺されなければ殺される”戦場において必死に戦い抜いた方。その一方で、戦後は幼児教育に情熱を注ぎつつ、自らの戦争体験を後世に伝えることを指名とし、平和や命の尊さを訴え続けました。
ここ長野県でも身近なところでこのような壮絶な人生を歩まれた方がいらっしゃったこと、そしてそのような方々が殆ど残っていなくなってきていることを再実感しました。そして「これを記録に遺していかねばならない」との宮尾監督の思いに共感する映画でした。第2部につながる問題提起にもなりました。
第2部 パネルディスカッション(コーディネーター:松本 猛)
第2部では、パネリストとして、第一部の映画監督である宮尾哲雄さん、久保亨さん、田村大地さんに登壇いただき、映画を口火に現代と戦争当時の社会の類似点を探りました。各パネリストのプロフィール、ご発言を要約します。
田村大地さん
田村さんは福岡県出身で現在は信州大学医学部3年生。学生サークル”信大政治参加推進コミュニティーVOTERSを設立し初代代表を務め、VOTERSを通じて、大学生が政治にかかわりやすい環境を作れるよう活動して来られました。
当自遊塾のパネリストとしては最若手です。
田村さんからは自己紹介と併せ、最初に信州大学生の政治に対する意識についてお話がありました。
- 大学生は狭いコミュニティーの中で生活しており、政治に触れる機会が少ない。
- 若者の政治に対するイメージは汚い世界で、本来の政策論争がなされていない。
- 公職選挙法が改正され、2016年からは18歳以上が投票出来るようになったが、信大生はまだ身近には感じ辛い状況。
理由の一つが、信大生の7割が県外出身者であること。住民票住所を実家のままにしている学生が大半のため、投票するためには投票日に実家に帰る必要があると思っている。
このことが選挙を更に縁遠くしていると感じた田村さんは学内に不在者投票ブースを設置し、郵送での不在者投票を呼びかけました(5日間で90人が利用したとのこと)。
- 最近の大学生はSNSの影響が大きく、そこには自分の好みの話題しか表示されない。メディアリテラシーは下がっていると思う。
コロナ禍で逼迫する医療体制に見られるように、過密労働を行わざるを得ない環境が今でもある。もう少し心と時間に余裕を持てる社会になれば良いと思う。
映画の感想
「見ざる聞かざる言わざる」の絵が印象に残った。”空気を読め”との風潮が広がる社会は恐ろしく、そうならないよう政治を見守っていく必要がある。
久保亨さん
信州大学人文学部特任教授で歴史学者の久保さんは東洋史、中国近現代史が専門でいらっしゃいます。
久保さんからは映画の感想も交えて以下のご発言がありました。
- 映画では日本人、特に民間人が空襲や米軍沖縄上陸で多数の死者を出したと紹介されていたが、太平洋戦争での日本人の死者は310万人。それに対し中国人の死者は少なく見積もっても3倍以上であり、日本人が殺害した。
- 映画で出ていたゼロ戦の舞台、東南アジア進出。あれは日本が中国での植民地政策に行き詰まり、東南アジア侵略に切り替えたから。
- 太平洋戦争はまず日本が侵略戦争を仕掛けて始まった。まずここを反省すべき。
- ドイツと違い、日本は1972年の日中国交正常化まで隣人に謝るのが遅れた。その原因の一端はアメリカが日本のアジア諸国との関係改善を望んでいなかったこともある。ドイツは隣人に謝らなければ戦後復興が始められなかった。
- 最近問題になっている日本学術会議は1949年に戦争のために学問・研究を使わない、との理念のもとスタートした。政府菅政権の任命拒否はルール違反。
- 日本政府は戦後、戦争に反対しない国民性を作ってきた。
- 最近の中国の横暴ぶりは、昔の日本の様だ。中国は日本から多くを学んでおり、愛国教育も進めている。日本は中国に、日本と同じような失敗を繰り返さないよう諭さねばならない。
宮尾哲雄さん
今回の映画を制作された宮尾さんは須坂市在住で長年テレビ局に勤務された方。
宮尾さんからはまず、この映画を制作された経緯をお話いただきました。
- 原田さんのことは偶々、原田さんが戦争を語る講演会で知った。そして衝撃を受けた。
- 高齢の原田さんを見て、これは早く記録に残して後世に残さないといけないし急がないといけないと使命感を持ち制作に取り掛かった。原田さんが存命中に取材出来て良かったと思っている。
- 原田さんの体験は太平洋戦争の断片であり、さらにその中から私が受け止めた原田さんの体験の一部である。その前提で視聴して欲しい。
- コロナ禍の現在と戦時中との共通点を感じている。空気を読めとの無言の圧力がある、物言えば唇寒しで批判を招く。
- 最近の科学技術の進歩は恐ろしく、地球温暖化を始めとして環境が壊れてきている。地球環境を悪くしてきた責任は私たち団塊の世代に一番ある。我々は社会の価値観の変革を迫られている。
- 良い歴史を正しく伝えるのが報道機関の役目だと原田さんが仰っていた。私たち市民がメディアリテラシーを持つことが大切。この報道は誰がどういう意図で取り上げたのか、受け手が考える必要がある。
- 今年は太平洋戦争開戦80年だが、いまだに世界では戦争が絶えない。原田さんが「平和な世の中を作ってほしい」と仰っていた。その為に日本国憲法を誇りとして世界に拡げていくべき。世界で国家間、個人間の信頼関係を築くこと、多様な意見を認め合うことが大切。
松本猛(コーディネーター)から
- 日本人の戦争に対する知識、特に加害の歴史認識がとても乏しいことを憂慮する。アメリカは1953年、朝鮮戦争休戦直後に、冷戦を見据えて「日本人に愛国心を持たせよう」と判断した。その結果、日本が侵略戦争を起こしたことを反省する教育がないがしろにされた。これが日本人の歴史認識を歪める元凶になっている。
- 「表現の不自由展」や「日本学術会議」で見られるように、政府の意向に従わない人への締め付けが強くなってきている。
- 昭和史に詳しいジャーナリスト、半藤一利氏が今年亡くなった。彼は日本の平和主義、民主主義、表現の自由が劣化し、立て直すことができなくなるギリギリのところに来ているのではないかと危惧していた。
- 我々は政治をしっかりチェックしなければならないし、投票を通じて意思を表明していく必要がある。
参加者の感想
映画の1シーン
- 戦争体験者や慰安婦の人がその体験を戦後何十年もたってから語るというのはどういうことか、ということを考えさせられました。
歴史的な事実は後世にのこるが、その体験をした生の声、体験の多様性もなくなっていくのだとわかって、やっと体験者の声の貴重さに気づきました。簡単に語れないものを何十年も背負わせるということ、そしてそのことを自分の死が近づいたときに「やっと」外に出す、そこまでにならないと出せない。ずっとずっと続くその言えない苦しみ悔しさ悲しさを作り出してはならないと改めて思いました。(長野市 30代 女性)
- 戦争を語り継ぐ人がいなくなる時代ですが、今日の映画は貴重だと思います。
原田さんの「命の大切さを子供に伝えてください」「命という宝」は心に響きました。また、「正しいことを正しく伝えるのがメディアの役割」と改めて感じました。(市外 60代 男性)
- 久保先生のご意見に全面賛成です。私も教員として授業で同様のことを話しているので、自信が持てました。
ただ、それに反対する学生も多く、歴史教育の大切さを改めて感じています。(松本市 50代 男性)
(記録:事務局 富取)