【2019年12月1日(日) 松本市中央公民館Mウイング】
3回シリーズで開いている「多文化共生を考えよう」講座。前回、第1回目は外国由来の方々の生の声をお聞きしましたが、今回は「外国の人たちと創る日本の将来」と題し、日頃彼らの抱える問題について向き合い活動している二人の方の経験から彼らの現状および日本社会の対応についてお話しして頂きました。今回も70名と多くの方々に参加して頂きました。
最初に松本塾長から「日本は人口減少とグローバル化の中で変化せざるを得ない状況で、どの様に変わっていけばいいのか?」との挨拶で始まりました。
前回も出演頂いた信州大学教授で、NPO法人CTN(中信多文化共生ネットワーク)の代表理事の佐藤友則氏にお話をして頂きました。
かつて怒羅権(ドラゴン)という在日中国人による半ぐれ集団が存在し地域からは恐れられていました。今後このような集団を生まないためにはどうすればいいのか?それは日本社会に受け入れ日本人と同じように教育の機会を与えて、共に日本を創っていく存在になってもらうこと。との話から始まり、外国由来の人々の実態紹介があり、引続いて出来ること、やるべきことの話が続きました。
外国人由来の方々で日本社会に受け入れられなかった若者が日本人への怒りと団結、権利の主張により半ぐれ集団を結成し活動していた過去があります。一方日本人は外国由来の人達について教わってこなかったため彼らとの接し方に戸惑うことが多いということです。
それではどうすればいいのか?一つの活動事例として松本市で開催され、今年で10回目を迎え1000人ほどの人が参加する『こいこい松本』祭りが紹介されました。ここでは各国の人達が自分たちの文化を紹介したり、話し合ったりして日本人を含む外国由来の人達が交流しています。
日本社会は労働者の受け入れで増加傾向の在留外国人は、現在283万人に達し人口の2.2%を占め、増加率は世界でも4位になっています。すなわち日本はすでに移民の受入大国になっているのです。総務省も、2006年に「対等な関係」との報告書を出しましたが、外国由来の人達は少数派であるため対等にはなりにくい現実があります。
外国由来の子供は義務教育の対象外で、かつ親も職を求め移動するため就学率が低い問題があります(高校進学率は全国平均で約50%)。また生活日本語は問題なくても、授業では専門語が多くて難しく授業についていけない事などからショックを受け、アイデンティティがゆらぎ自分は何人なのか?どうやって生きていけばいいのか?と悩んでしまい、半ぐれ集団などを生む素地になります。
一方日本人も彼らへの理解不足、教育不足からヘイトスピーチへ向かう(法律の整備などで減少していますが・・・)若者がいるのが実情です。そして彼らを日本社会へ「同化」させるのではなく、多様性を前提にした「統合」へ進むのが世界の潮流です。
今後の日本の人口はますます若年者が減り高齢者が増えるという「棺桶型」に進んでいくことが明らかです。そして働ける人口が減り、外国から労働者を受け入れグローバル化がますます進みます。そのため外国由来の人は日本社会への適応と共に日本人は彼らを労働力の補充としてではなく、理解し活用していくことが求められます。
移民の多いドイツやアメリカ、台湾、オーストラリアといった国の事例は、多様性が新たなイノベーションや発展のキーとなります。これは今の人手不足対策といった小手先の受入政策ではなく、抜本的な政策を推進することなのです。
2012年に政府は「多様な構成員が社会を活性化する」との方針を発表しましたが、その後の具体化は全く進んでいません。そのため世界からは呆れられ、動向が注目されています。また法律の裏付けがないと現場である自治体だけでは改善が進まないため国では『多文化共生基本法』の制定を進め、移民業務を一括担当する新たな省を設置すべきなのです。
以上をまとめると、人口減が進む日本は外国由来の人達は排除するのではなく活かして共に日本を創っていく存在になってもらうのです。多文化共生が日本の将来を左右するという認識のもと日本人の理解と共に彼らを活かす法律の整備が必要といえます。
次は松本市の多文化共生プラザで外国由来の方々の相談業務を担当している丸山文さんからのお話でした。
まず、丸山さんのアメリカでの難民支援の経験から、移民の子が難民の支援活動をサポートしている例が挙げられました。その男性は、小学生の時に難民としてアメリカへ渡った後も教育を受け、難民を支援する人間に育ったといいます。この様にアメリカでは難民が教育を受け地域で活躍する例が多いのですが、はたして日本ではどうでしょうか?と問われました。
そして、多文化共生は多様性の一部である事。そして支援とは外国由来の人々を単に助けることではない。というポイントで話が進みました。
現在、松本には外国籍の方が66ヵ国、約4,000人住んでおり、その在留資格は次の2種類に分けられます。
この他にも日本に帰化し日本国籍の持つ「外国由来」の方など多様な人がいて、短期の滞在者より住民として長く住み続ける人の方が多いのです。そして、これらの人達から多文化共生プラザでの相談事例は次の2種類に分けられます。
具体的な相談事例としての3件の紹介がありました。
これらの相談事例は外国由来ゆえの理由もありますが、殆どは日本人の問題と共通のものです。単に外国由来の人々が直面する問題と考えていれば、日本社会全体の問題は解決しません。その背景として日本社会には多様な人がいるのに、この多様な人々を受入れる事が前提になっていないことが挙げられます。このことが日本社会の大きな問題です。
また、多様性とは単に国籍や出身国、文化の違いだけではなく、宗教、性別、年齢の違いなどもあるので、多文化共生とは多様性の一部で外国人だけの問題ではなく、日本人みんなの問題であるといえます。
外国由来の人々を助けるという上から目線では問題は解決しません。弱者は、「人間として弱いのではなく、弱い立場になりやすい人」で、移民・難民は問題を抱える弱者としてではなく、地域の人材となる「資源」と考える事が必要なのです。そしてその時々の対応だけではなく、問題が発生した背景に応じた長期的なサポートを行い、地域の人材となるようにサポートすることが求められます。
以上をまとめると、多文化共生は多様性の一部で、外国由来の人達の抱える問題の多くは日本人も抱える問題でもあり共に解決していくことが必要です。また、上から目線からの「助けてやる」ではなく、彼らの能力を活かして「地域の資源になる人材」として捉えることです。
最後に、質疑応答が行われ、会場からは積極的に質問が挙げられました。 (レポート:森村会員)
「日本に住んでいる外国人の方々のまわりには様々な問題があることがわかりました。今まで自分が気づかなかったような問題がたくさんあり、特に外国人支援の現場の声を聞けたのは良かったです」(岡谷市・10代以下・男性)
「”外国から来た人はマイノリティになってしまうが、弱い人間ではない”ということは、とても強く印象に残りました。状況により立場が弱くなってしまう人たちを社会にプラスに取り入れていくには、松本の人々の協力が不可欠である。しかし、今回の講座でも、そこをこれから担っていく若者があまり参加していない。意識していないということは問題だと思います。そこの根本というのは、多文化共生の教育がちゃんと整っていないという日本のシステムによる問題が眠っていると思いました」(松本市・20代・女性)
「とても興味深いお話を聞かせていただきました。外国由来の方々が問題なのではなく、私たち皆の、社会の問題なのだということに共感しました。そして、資源、人材と捉えるということ。その人の良さが発揮できるような環境を作っていくことが大切。わたしは中学校で働いていますが、クラス内でその子の良さ、特性を生かしていく、それを認める雰囲気や環境をつくっていくことが大切であり、それが多文化共生そのものだなと思いました」(安曇野市・40代・男性)
「外国由来の人々を”助ける”のではなく、”地域の資源になる人材である”。みんながこのように考えられるよう、まずはお互いに”知ること”が第一歩だと思う。特に学校でこうした教育をして欲しい」(松本市・40代・女性)
「佐藤先生のわかりやすい講義に解説に引き込まれ、勉強になりました。日本人の、外国人の方に向けての共生の道、知らなかったことが多く、たくさんの知識を得ることができました。丸山先生の外国での活躍も興味深く、拝聴してよかったです。多文化共生のお付き合いの中での寛容さが必要、会話ができるのかどうか、対話、会話、納得が大切。自分が一番正しいと思わないこと、柔軟さが必要である。意見が違うことはあって当然、議論ができること、理解が大切と心に響きました。文化の違いを知り、受け入れることの意味を深く感じ入りました」(安曇野市・70代・女性)