【2018年11月23日(日) 松本市大手公民館】
「ドイツから学ぼう」をメインテーマとした2018年の講座。最終回の今回は日独の比較に当たっては外せない「環境・自然エネルギー・原発」がテーマ。環境先進国ドイツの事例から学び、日本の今後のエネルギーの在り方について考える機会にしたいと開催しました。今回も89名という多くの方に参加頂きました。
今回は第1部のメインスピーカーとして、立命館大学教授のラウパッハ・スミヤ ヨーク先生にお越しいただきました。
ドイツ出身のラウパッハ先生は1990年に来日、外資系企業の社員、役員を経て滋賀県の日本企業の社長まで勤めた企業人出身者。2013年から同大学経営学部教授として国際経営、国際産業論を担当されています。
特に再生可能エネルギーと地域エネルギー事業では日本国内の第一人者で、㈳日本シュタットベルケネットワークの代表理事も勤めておられます。今回、先生には「ドイツにおけるエネルギー政策 その経緯と日本との違い」と題してお話し頂きました。
ドイツのエネルギー政策は包括的な社会環境政策の一つとして考えられている。そのエネルギー政策の中に、再生エネルギーの活用や地域の経済活性化、イノベーション等がある。日本で良く話題になる原発廃止はその一つに過ぎない。
忘れがちであるが一番大切なことは、エネルギーを使わないこと。もしくはエネルギーを有効に使うこと。
ドイツが原発廃止に舵を切ることになった大きなトピックスは3つ。
①1986年のチェルノブイリ原発事故が一番大きい。
②その後、1998-2005の社会党と緑の党の連立政権が推し進めたこと。
③そして極め付けは2011年の福島原発事故。先進国の日本でも事故が起きてしまったことに大きな衝撃が走った。
福島の事故がドイツ国民にとって衝撃であったことは間違いないが、ドイツが脱原発を決めたのは2000年。その際、併せて再生可能エネルギーも推し進めた。固定買取法がスタートしたことで、投資家が安心してエネルギー事業に投資できる環境が出来た。
2005年から首相に就いているメルケルは2010年に脱原発の期限延期を決めたが、物理学者出身の彼女にも福島事故は大きな衝撃だった。福島事故をきっかけにドイツは原発廃炉の期限を2022年に早めた。
日本政府は原子力を引き続き国の重要なベースロード電源と位置付けている。ドイツは2000年の時点で将来的廃止を決めている。
将来の削減目標を決めるに当たり、日本は現在の技術力から判断して現実的な数値を設定する(積上げ方式)。ドイツはあるべき姿をまず設定し、その後それに至るための方策を考える。日本は目標に対する達成意識が低い。
日本では原発に反対するのは左派のイメージがあるが、ドイツでは違う。保守系の人々も原発に反対してきた。また緑の党(左派系)出身者が多く市区村長を務め、行政に関わってきたこともある。
原発を保有する限りリスクはゼロにならない。残るリスクを社会として負うべきかどうかは極めて倫理的な課題であり、ドイツはこれを国民に負わすべきではないと判断した。日本では原発の問題は経済的観点でしか語られていない。
ドイツ人は意見の相違があってもディベートを通じて解決を図る土壌がある、日本にはそれが無いと感じる。
日本のエネルギー政策転換を政府に求めるのは現実的ではない。自治体レベルから変えていくしかないと感じる。
京都議定書(1997年)を機に温室効果ガス削減の機運が高まった。2050年までに一次エネルギー(石炭・石油等)の使用を半減させることを決定。日本と違い、エネルギー転換政策を負担と捉えるのではなく、23万人の雇用創出の機会と捉えたり、自給率を上げることで安全保障上のリスク低減に資すると考えている。
ドイツの固定価格買取法は補助金とは違う。再生可能エネルギー普及に伴うコストは電気料金に上乗せされることで国民が負っている。同法が奏功し再生可能エネルギーのコストは下がり、今や石油や石炭エネルギーよりも安くなった。
再生可能エネルギーは発電量が時間によって大きく変動する。この発電力を効率よく社会に組み込む仕組みが必要(市場統合)。2016年に固定買取法が改正され、エネルギーの入札制度が導入された。国は一定価格以上の値段が付かなかった場合のみ補助をする。
再生可能エネルギーの中では陸上風力発電(13.3%)が一番多く、バイオマス(7.9%)が続く。フランスから原発電力を買っているとの報道があるが、事実ではない。むしろ輸出しているぐらい。
シュタットベルケ(自治体所有の公営エネルギー企業)がどの地区にもあり、稼いだ利益は地元に還元される。
ライン川沿いのある町(人口10万人)は風力を中心に発電し、その自給率は300%。温室ガス排出もゼロであり、時代の先端を行っている。ミュンヘン市も2025年までに市内で消費する電力を再生エネルギーのみにすると宣言している。
パネリスト:信州大学准教授の茅野恒秀さん・NPO法人上田市民エネルギー理事の合原亮一さん・ラウパッハさん コーディネーター:松本猛塾長
日本と長野県の自然エネルギーの現状などをご説明頂きました。
民間の実践者の立場で、成功している事例や、そのためのご苦労などをお話し頂きました。
「政府の方針より、地域でしっかりできるようにすることを学んだ。ドイツは人口が少ない村などが多く、自己決定能力が日本よりも高いように思ったが、日本社会でもいろいろな可能性があることがわかり、目が開けた思いがした」(松本市・50代・男性)
「ドイツと日本の違いに以前から疑問を持っていたが、今日の講座でその一端をうかがうことができた。海外の多くの地域で電力は上下水道と同様に自治体の事業になっており、松本市なり、長野県なりでもその方向を模索してもらいたい」(松本市・80代・男性)
「日本以外の国の自然エネルギーへの取り組みなどは知らなかったので勉強になりました。日本の再生エネルギーへの取り組みのこともほとんど知らなかったのでもっと知っていきたいと思いました。身近なことだし、未来につながることだから知って考えていきたいです。」(安曇野市・20代・女性)
「ラウパッハさんのお話は3回目ですが、政治的なことは聞いたことがなかったので新鮮でした。わざわざ飯田から来た甲斐がありました」(飯田市・50代・男性)
多くの方が熱心に聞いて、感想もたくさんお寄せ頂き、原発事故から7年経ってもエネルギー問題への関心が薄れていないことに少し安心しました。 一方、今回、行政の方が「原発をテーマの一部にする会には参加できない」などの理由で登壇や出席をされなかったことが、市民との対話を重視するドイツと対照的で、とても残念でした。 《記録:事務局 富取(第1部)・松尾(第2部)》