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〈レポート〉第16回講座「地域と自然が育てる 元気な子ども」

2015.02.07 | カテゴリー:講座の記録

【2013年11月30日13:30~16:30 於:三郷公民館】

16講座では、「教育」をテーマに、長野県青木村での教育実践で注目された上田市立北小学校校長の小岩井彰先生を講師としてお招きし、「人とつながる力(社会力)を育てる」というテーマにてお話いただきました。
その後、テーマ別に3つのグループに分かれ、グループトークとして参加者に日頃の子育てや教育への思いを語っていただきました。

信州自遊塾では、本講座のねらいを以下のとおりと考えています。

  • 子育て・教育には、地域の役割が大切であること
  • 子育て・教育の改善には、子どもを含むすべての地域の人々が“社会力”を身につけてゆくことが必要であること(社会力とは、教育学者の門脇厚司氏の言葉で「人と人がつながり、社会をつくる力」を意味する)
  • 地域ですぐに取り組むことができる具体的な社会力の実践の共有

小岩井先生には、1時間半という時間では納まり切れないほど、内容の濃い講演をしていただきました。地域の皆さまをはじめ、保育関係者や小学校関係者が来場され、小岩井先生の講演に熱心に耳を傾けていたのが印象的でした。

小岩井彰氏プロフィール

上田市立北小学校校長、地球クラブ代表。1956年長野県生まれ、1982年長野県小学校教諭になる、タイ国カオノアチュチ低地熱帯林保護プロジェクト参加。
1995年「地球クラブ」設立、タイ国の熱帯林保護や就学支援活動及び長野県青木村で子どもたちのための自然体験プログラムを展開。長野県教育委員会文化財・生涯学習課、長野県青木村教育委員会教育長を歴任。「地域の教育力」「社会力」を提唱。

第1部:講演「人とつながる力(社会力)を育てる」

小岩井彰先生

今の大人は子どもたちを将来どんな大人にしたいのか。そのために私たちは今、何をすべきかを真剣に考えなくてはならない。学力向上、体力向上による数値的なものや、学校的な価値観で本当に子どもは育つのだろうか。

子どもは未来からの預かりものであり、未来そのもの。不登校の問題など目先の現象を追い、大人の視線で次から次へと対策を講じることが、子どもにとって本当に良いことなのであろうか。

教育法における教育の目的とは、「社会の形成者として必要な資質を備えた国民の育成」とある。社会の形成者の育成とは、簡単に言えば、自立した(自分で飯が食える)大人に育てることを意味する。

果たして、これまで社会の形成者に育てることに成功してきたのか。大卒のニート数、成人のひきこもりの増加や児童虐待の相談件数を見ていると、とても成功しているとは言い難い。

ある保育者によると、今の子どもは、ままごと遊びにおいて、お母さんやお父さん役になりたがらない。小言を言い続けなければならないことや、セリフ自体が存在しないという理由からである。一番人気は「ペット」役で、大事にされたいという気持ちの現れからである。このような子どもが、将来、社会の形成者になるとは思えない。

人間的な情緒や感情に乏しく、その欠落を「面白さ・おかしさ」と「暴力」によって埋める傾向があり、社会学的には「非社会化」が進んでいるといえる。このような現象は、お笑い番組や暴力的な内容が多い現代のテレビ番組に象徴されている。非社会化として、以下のような現象が挙げられる。

  • 自分以外の人間に関心を持つことなく、関わりをさける(人間嫌い)の進行。
  • 子どもたちが、自分の親や祖父母たちと同じような資質や能力を備えた人間になりきれていない結果、社会の形成者としてより良い社会をつくる意欲に欠ける。
  • 人との何かを築き上げることが出来ない(人との関わりの希薄化)。

では、なぜ非社会化の現象が起こるのか。その原因は、人との接触不足によるものだと考えられる。昔は、向こう三軒両隣と言われるように、近所づき合いを通じた濃厚な人付き合いがあった。小岩井先生自身も、お湯が貴重だった時代に「もらい湯」を経験した。今の子どもたちは、大人と接する機会が極端に少ない。

一方、これからの子どもたちは、経済力、宗教、民俗、文化などの違いによる格差拡大や紛争問題、人口増に伴う資源、食糧、水不足の問題や環境汚染の問題に直面していく。現代よりも困難な問題がのしかかる時代を生きていかなければならない。

非社会化の現状、そして環境的に今後より困難な時代を生きなければならない子どもたちに、今何が必要なのか。

  • 直面する問題解決のために、他者と協力して、それぞれが身につけた知識を編成し直し、新しい知識を創りだし、その新しい知識を活用することができる能力。
  • 社会づくりへの参画意欲と、問題解決のための知識と能力。
  • 人とつながって新しい社会を構築する力(社会力)。

これらの能力を身につけるために、何を考え、何を行うべきか。以下3点が重要。

  • 新生児の有能性の理解
    • 大人が想像している以上に、新生児は人になるために多くの能力を持って生まれてくること。
    • 愛情に満たされてこそ育つという「愛着の形成の重要性」への理解。愛着の形成から人に対する基本的な信頼(ベーシックトラスト)が生まれる。
  • 学校や地域の大人を巻き込んで、多様な他者と徹底的に触れる機会を設ける
    • 人とつながることによって新しい社会を構築する力が育つ。
    • 他者を取り込むことで、人に対する関心・愛着・信頼が育つ。
    • 子どもにとって大人こそ最良の友達であり、大人との触れ合いを求めている。
  • 「つ」のつく時代(1つ~9つ=1~9歳)の遊びの重要性と遊び場の確保
    • 外遊びこそ生きる力の源である。自然の中で思う存分遊ぶことが重要。
    • 「やってみたい」、「おもしろそうだ」と思う事を全てやらせる。大人は、「危ない」、「汚い」、「うるさい」の頭文字(AKU)を言わない。
    • 「やらされ感」からの脱却。大人は子どもに価値観を押し付けない。

子どもたちは、遊びの中から、そして人との触れ合いの中から、「かけがえのない自分」への気づきと「意欲」を育てる。自然の中の棒きれ一本で遊び尽くすことで、想像力、創造力や冒険心を養う。人との触れ合いから生じるトラブルや喧嘩によって、解決する力を養う。

大人は、本来、子どもが持っている能力を信じて、「待つ」ことの重要性を理解しなければならない。教育の現場においても、子どもを大人の価値観でこねくり回すことなく、未来へ送りだすことが重要と思われる。

最後の30分間、小岩井先生は映像写真を用いて、青木村の教育長時代に実践した「子どもたちに人とつながる力」を身に付けさせる教育のお話をしていただいた。大学生からお年寄りまで、さまざまな年代の多様な人々がかかわり参加していた。先生は「一人の子どもを育てるには村一つが必要だ」と語っていたのが印象的であった。また、現在校長をされている上田市立北小学校での「遊び」を中心とした取り組みについて映像を用いて説明いただいた。ここでは子どもたちの明るい笑顔が印象的であった。

質疑応答

  • 公立小学校において、小岩井先生がお話された実践がされていることが素晴らしい。校長先生にリーダーシップがなければ、このような取り組みの実現は難しいのか。
    ⇒ リーダーシップは大切であるが、目的を共有するために、職員と話し合うことがより重要になってくる。社会の形成者を育てるために、学力向上よりも「遊び」が大切であることを皆で共有する。そして、学校において「遊び」が提供できることを地域社会に発信することが重要。

  • 残念なことに、今の学校教育の主流になっている教育方法は偏差値を上げることだと感じる。学力向上のために作成されたテストを受ければ、遊びや社会力を付けた子どもたちでも、普通の子どもに点数競争では勝つことが出来ない。このような点をどのように考えているのか。
    ⇒ 決してテストが出来なくて良いとは考えていない。ただ、競わせることはしない。遊ぶ時間を確保するために、1時間の授業の質を上げる取り組みをしている。確信できることは、社会力がつけば、必ず学力は上がること。反面、学力がついても社会力は身につかない。

第2部:グループトーク

グループ1 子どもが愛着をもつ地域と学校づくり

地元三郷地区での実践、地域と学校がつながり協力しながら子供を育てていくために何ができるのか。焦点を絞って話し合いました。

出席者からの意見

  • 学校の仕組みが分からない。
    • 今年から三郷小学校のコーデイネーターをやっている。学校と地域の連携について、学校のどこに話を持っていけばいいのか分からない。先生やPTAとの話し合いの場を持ちたい。
    • 教師個人の意見が出しにくい環境があるのだろうか。子供の担任の先生に意見や提案をしてみるが一保護者の意見として流されてしまう。自分にできることをやろうと思うが何ができるのか分からない。
  • 学校と連携したいこと
    • 外部講師—子供たちにユニークな大人、型破りな大人に会わせたい。
    • 小岩井先生の実践「水曜日の昼休みの遊びの時間」—これだけでも試してみてはどうか。
    • 三郷支所の2階が空いている。子供たちと地域の大人たちが交流したり、放課後の勉強の場に解放できないか。小中学校と声を合わせて提案したい。
    • 地域の餅つき大会—親が出ないと子供も出てこない。子供を預けるような信頼関係を作るためのきっかけつくり。三郷ファームの食農教育で米つくりをして学校で餅つきをやっているが、地域の餅つき大会とコラボして子供との交流につなげられないか。
  • 今日からできること

    まず大人から子供たちに「おはよう」「こんにちは」+ひと声。明るく挨拶しよう

グループ2 どあい冒険くらぶの活動(三郷の自然学校)大浜

小学生の野外活動を、安曇野の奥地でやっている。夫婦で、移住した土地がすばらしく、自分たちだけでは惜しいのでクラブを始めた。月2回、月ごとにプログラムを作ってやっている。

何で遊んでもいい「自由時間」があり、それが大事。

「やりたい子はやる、やりたくない子はやらなくていい」というスタンス。

社会性を養うために一つやっていることは、「どじだなあ」などと言いながら許す心により、人に自分の失敗を見せるのを恐れないようにしている。

わざと下手に歌うと、「浜、下手だなあ。オレ、もっと上手く歌えるよ」と子供が歌い出す。「こういう風に歌うんだよ」と教えるよりいい。

出席者とのやりとり

  • 大人による作られた遊び・「やらされ」はダメ。例えば、川をせき止めて狭いエリアを作って「ここで遊んで」というのは良くない。学習も同じ。「教える」より、自分で学ばせる。大人も楽しむことが大事。大浜隊長が一番楽しんでいる。スタッフもマニュアルはなく、その人の個性や特技を大事にして参加してもらっている。
  • 出席者:野外保育をやっていても家庭では、TVのヒーローやゲーム機ばかり関心がある。
    →大浜:それもその子の個性。うちではゲーム機は買わないよと言ったら、他の物でゲーム機の真似をして遊んだ。その創造性が大事。

グループ3 先生と子、親と子の信頼関係をどうつくるか

小岩井先生の実践と教育観をさらに深めて考えるグループです。安曇野市明科で、野外活動を通して幼児教育に取り組む「くじら雲」の代表、依田敬子さんにも加わってもらい、自然の中で学ぶことの意味、自然と人間、人間と人間の関係をどう作っていくかについて話し合いました。

健全な子育ての環境づくり:家庭に求めること 小岩井先生のお話

  • 大人の方程式に子供を当てはめない。子供は別人格。子離れを。
  • 学校の価値観に左右されない。その家庭独自の子育てを。
  • 思ったように育たない。育てたように子は育つ。
  • 「お母さん」の語源は「太陽」(太陽が燃えている擬態語「カッカッ」が転じた)
    • 母親は常にニコニコ顔。大きな声で話し、よく笑うお母さん→元気なお母さん
    • 子どもは常に母親のヒーローでありたい→受け入れ、話を聞くお母さん
    • 干渉しすぎない→「やらされ感」と「幼児的万能感」を助長しないお母さん
    • 子どもの言い分を鵜呑みにしない→しっかり確認、待ち、見守り、口出さない
    • しっかり叱る→八ヶ岳(いくつもピークがある)型でなく富士山(大きなピークが一つ)型で=「厳しく」「短く」「後引かず」
    • お父さんがいないところでお父さんをほめる
    • 一人で悩まず相談できる人を見つける

  • 「お父さん」の語源は「尊い人」
    • 働く姿を見せる
    • 気迫を持って叱る→ダメなものはダメ
    • 外遊びこそお父さんの出番
    • お母さんの話を聞く→宅急便「運送(うんそう)配送(はいそう)その通り」→お母さんを論破しない
    • いざというときにお母さんと一緒に悩みを解決する

森の幼稚園「くじら雲」のコンセプト 依田敬子さん

実践しているのはドイツ北欧でさかんな幼児教育法。自己肯定感育むことを目的に、できるだけ子供達主体の活動している。親はいつでも参加できる。幼児期、感覚を育む大切な時期。自然のなかで多様な事象に関わることで、自然に対する畏敬の念も育つ。親子でのお月見など、昔はしていたが、いま家庭ではしなくなった行事を取り上げている。

出席者の発言

  • 大人の常識を知らず知らずのうちに子どもたちにすり込んでいる大人がいる。子どもを型にはめ、教え込もうとしても、それは子どもからみれば肯定されていないということになる。子育てが教育だというのは錯覚。教えない、ということが最高の学習につながる。それを実践している。教育をしようとすればするほど、子どもの能力減退してしまうというデータも得た。(塾経営)
  • 森の幼稚園に通う娘は自然の中で遊ぶなかで知力を養ってきたと感じる。公立小学校への入学に不安を持つ。環境の変化に対応できるのか、という不安と同時に、画一的な学習の場に迎合していいのかという思いもある。公立の小学校を魅力的な場に。(2児の母)
  • くじら雲を始めて8年、卒園児50人のうち去年までは不登校になった子どもはゼロだった。子供たちは小学校にみんな期待をもって通い始める。しばらくすると「つまらない」といいながらも、対応していく姿が見られる。(依田園長)

まとめ:松本猛塾長

ドイツの森の幼稚園のデータでは、自然の中で活動しながら育った子どもたちはコミュニケーション能力や対応能力が身につくとある。年代を越えてふれ合うことで、多様で複雑な人間関係を経験することができる、また、毎日違う気象条件のなかで遊ぶことによっても対応能力がつく。そのような基礎的な人間の能力をつくっていくこと大切。その方向性は正しいのだろうが、いまの日本のなかでそういう子供たちがうまく生き延びていけるのかが問題。

学校だけでなく、自然のなかで年齢の違うこともたちが自由に遊び、交流できる場を地域のなかにたくさんつくっていくことが多様性のある可能性を秘めた子供を生み出していくことになるのではないか。


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