【2022年10月15日(土) 松本市中央公民館Mウイング6階ホール】
10周年記念講座第2弾「大学生と考えるSDGs」は、約30人が来場、オンラインで15人ほどの方にご参加いただきました。
第1部では、信州大学経法学部「環境政策・SDGs講座」(主宰/中島恵理さん)で環境保全やSDGsの政策の企画立案を実践的に学んだ学生たちが、移動手段・建築・食・脱プラスチックについて、具体的で実現可能性のある提案を発表しました。
続いて第2部では、共に信州大学准教授で、社会学、物理学の専門家である茅野恒秀さん、Mark Brierleyさんに、環境・エネルギー全般と省エネ住宅の専門家としてお話をしていただきました。
通勤通学・地域活性の目線に立ってスマートムーブメントを!
課題把握として、信州大学松本キャンパスの生徒に対してアンケートを実施(190名)し、市内における自転車移動・バス移動の課題点は何か把握した。
自転車利用者のモラルの低下、駐輪スペースが少ない、など様々な課題があがったが、今回は通勤通学の視点から駐輪スペースの少なさ、自転車の利用に対してのインセンティブ(割引、動機付け)の少なさを取り扱い、自転車利用者がエコを自分事として捉え、自転車を利用できるよう「まつもとHM(ヘルシームーブ)まいれーじ」という仕組みを考えた。
これは、自転車での移動距離、カロリー消費量、CO2削減量などを「松本へるす・ラボアプリ」(一財松本ヘルス・ラボ)との連携でポイント制にし、協賛企業等からの割引等の特典を得ることができる。
補助金頼みにすると、長期期間の施策が続きにくいという問題点があったので、協賛企業を募るために、会員を匿名性にし、会員の自転車での移動データを提供することにした。学生がよく立ち寄る場所が知れ、企業が出店を考えたときに、その場所は人が集まる場所なのか参考にできる。
駐輪スペースの確保の点ではサイクルショップライドで駐輪場を確保したりすることにより、公共交通機関との接続性の向上を狙いとした。
少子高齢化に伴う、公共交通の維持困難や、山間部高齢者へのフォロー不足、地域における若者の関わりの不足などが課題としてあげられる。
エコな交通手段であるバスの再編と救済や、山間部居住地の維持にむけた価値づけ、交通政策と医療福祉・商業の結合によるバスの多角的利用を考えた。この移動販売バスは、バスの利便性を活かし、採算がとりにくい路線の収益の多角化、信州大学を経由することで大学生も参加できる。
自転車やバスの政策提案の前提となるのは、これらの手段は、移動にかかる情報を統合し、利用予約やチケット購入できるオンラインプラットフォームの整備が必要である、という点である。
オンラインが苦手な人に対しては学生がフォローするなど異なる世代の関わりが生まれてくるだろう。
我慢や負担ではなく、楽しくできる仕組みがエコになるのではないかと考えて提案した。
現在長野県では、「信州健康ゼロエネ住宅助成金制度」や、松本市では住宅用温暖化対策設備設置補助金制度(省エネリフォームの補助金)などの助成金制度がある。
しかし、補助金などの経済政策が多く、市民を促すような社会的仕組みがなく、「環境に配慮した住まい」に対する建築事業者と依頼者の意識の底上げが必要だと考えた。
政策の継続性としては合同事業体の設立を考えた。企業、研究機関、松本市が連携して合同事業体になることによって、より効率的にわかりやすく住民へZEH(0エネルギ―)化を説明できるようにすることが可能になる。
住みやすい環境の創出(公共交通機関の整備、学校、企業などの誘致)や、空き家をZEH化し、その良さを実感してもらうなど、具体的方法を考えた。
展開のモデルとしては、まずは地域を絞って行い、まず地域内のZEH化を進めることを考えた。
国は建築士に対して、建築主に省エネ性能について説明する義務(建築物省エネ法27条1項)が定められている。長野県にも建築業者に省エネ性能導入の情報提供の努力義務やなどが求められている。
これらの情報提供の実効性のために、具体的政策としては、
①情報提供の義務をしっかり行っているか松本市がチェック(監査)すること
②松本市内に営業拠点のある事業者を対象に、建築事業者対象の講習会の開催し、積極的に環境に配慮した住宅を手掛けている事業者を表彰・HPなどで紹介する。
の2点を考えた。
①については実効性が確保されていない点、②については国土交通省からオンラインビデオなどで資料が提供されているが、視聴する時間の確保や長時間の映像視聴では集中力が途切れやすく、事業者側にどれだけ伝わるか疑問を持ったからだ。
殆どの学生たちにとって経験のある学校給食は身近なものである、そこで給食について考えた。
給食は規模が大きい分、食べ残しによる食品ロスが大きく、年間一人当たり17㎏である。給食の食べ残しを削減できれば、社会全体としての食品ロスの削減に大きく貢献できるだけでなく生徒は食事を残さない長期的な基盤を作ることができる。教員の指導だけでは限界があるので市が介入するべきではないかと考えた。
具体的には、
①月初めにクラスごとの残飯量を計測し、事前に量を調整する
②最初には以前する量を従来よりも少なく配膳する配膳方法の改善
③食品生産者を学校に招き、その苦労を聞くことで、好き嫌いせずに残さず食べようという意識を生徒が持てるようにする
④給食を食べる楽しさを見出せるような動画広告
などの施策を考えた。
現在松本市では、積極的に松本地域産品を活用しPRする意欲のある店を松本市地産地消推進店として登録し、登録証、登録看板を交付、市のホームページ等で文字での「紹介しているが、若干その紹介方法は弱く感じた。文字だけでなく、多くの市民が訪れる松本市役所の待合スペースのテレビで定期的に登録店の紹介映像を流す時間を設けたり、市の観光サイト「新まつもと物語」で地元食材を使った宿や飲食店を積極的に紹介したらどうかと改善案を提案した。
給食のリブランディング、地産地消の促進の両方を狙った政策として地産地消推進店とのコラボ給食を提案も提案した。生徒は普段と違った給食を楽しむだけでなく地元のお店を知ることができ、ただ地元の食材を使った給食を提供するよりも、地元食材について興味を持つことができるのではないかと考えた。
ペットボトルに入った飲み物の販売・購入が非常に多い。自販機が多く、マイボトル化が難しい。ペットボトルの削減(マイボトル化)を目指し、「ドリンクバー自販機」を考えた。
マイボトルに直接飲み物を入れ、内容量に応じた値段を設定。高圧洗浄機付きで自動でボトルの洗浄が可能。また、待ち時間に企業の広告をみることができる。こういったものが市役所や学校に設置することで多くの市民に利用してもらえる。デメリットもあるが、それぞれ対策を考えた。
また、コンビニなどではまだまだプラスチック製品が多い。コンビニコーヒーの容器もプラスチックだが、マイボトル持参でスタンプがもらえ、一定数集めたら商品券などに交換できる仕組みや、リ・リパックの普及についても考えた。(リ・リパックについては実際に学食でも利用されている)
学生たちは、生活の中で実際に目にしているものから問題を見つけ、ビジネスとしても効果的な解決策を考えている。
茅野さんは、信州大学准教授の他、長野県地球温暖化対策専門委員会・松本平ゼロカーボンコンソーシアム・松本市環境審議会の委員長や委員を勤められ、安曇野市・富士見市・飯島町・箕輪町などさまざまな自治体の温暖化対策計画策定にも関わられています。
以下のようなことを発表されました。
また、2050年のゼロカーボンには、国際エネルギー機関・長野県・松本市の試算で、例えば、以下のようなことが必要となっています。
Mark Brierlyさんは、イギリスのヨークシャ州出身、ケンブリッチ大学工学部卒業。現在、信州大学外国語准教授されています。
10年前に自宅を新築する際、エネルギーを消費する家からエネルギーを供給する家を、目指し、その後、ドイツ基準のパッシブハウスのコンサルタント資格を取得されました。
一万円で、断熱材と灯油さてどちらを買うべきでしょうか?これは難しい問題です。1つは設備投資でもう一つはランニングコストで比べる基準が違うからです。
さて、CO2を減らすには、どうすればよいか。
エネルギー効率(Energy Efficiency)と電気化(Electrify Everything)そして、肉食を減らす(Eat less meat)です。
化石燃料は、環境基準を大きく超えているので、電力会社の石炭・石油・ガス、自動車のガソリン消費を止め、エネルギーの電気化を進めなければなりません。
これを変えるには国や県の法律を変えなければなりませんが、会社にしても社会にしても一人ひとりの人から構成されています。一人ひとりが自覚し考えなければならないことです。
Global direct primary energy consumptionの提示で1970年代の石油危機も2008年の経済問題も表から読み取れますが、京都議定書もパリ議定書も読み取れません。
表に見えるように石炭・石油・ガスが、CO2排出量の大部分を占めています。再生エネルギーは、上部の一部だけです。たとえ再生エネルギーが増えても下部の大部分を占める石炭・石油・ガスの消費が減らないと意味がありません。
熱力学第二法則を知っていますか?それでは熱力学第一法則を説明します。
熱はエネルギーに、エネルギーは仕事(運動)に変換できます。しかし、エネルギーを創り出すことはできません。これが熱力学第一法則です。またエネルギーの単位には様々なものがあります。calorie(食料)・kWh(電機)・litter(石油)・m3(ガス)・Ah(携帯電話)
Nm・joule・ev-electron volts・e=mc2
次のものをエネルギーの高い順に並べましょう。
人間は、エネルギー効率が大変良いことがわかります。そしてこの様に、エネルギーは、変換することができます。
お茶を置いておくと冷たくなります。熱は暖かいほうから冷たいほうへ移動します。
また、熱は遮蔽物が少ない道を探し移動します。このように省エネ住宅では断熱の弱い所から熱は、移動します。
ロウソク(燃料)から熱に変換 熱から電気に変換 電気から光(LED)に変換
LEDの光は、ろうそくの光より遥かに明るい、ろうそくの光は、LEDの光に比べて0.05%の高率です。LEDはろうそくより600倍効率が良いということです。
ろうそくの光で書いた「市民の力で気候変動を止めたい」の写真を示し、ここで使われているろうそくは、省エネ住宅10軒分光熱費をカバーできるエネルギーですと疑問を呈されました。
パッシブハウスとは、ヨーロッパ・カナダ由来の建築基準の家で高断熱・高気密・高快適な省エネ住宅です。しかし、空気の中には湿気があるので断熱だけでは壁の中に湿気がたまり、機密を取ることが必要です。壁の中の結露は、家にも人にも大変悪いものです。
一番良いのは、断熱と機密があること。夏涼しく冬温かい家になります。
断熱材で平面を覆うことは簡単ですが、屋根と壁の接点、壁と土台の接点家の配管や配線には熱橋とゆう問題が起こります。
これらにより年間光熱費が安くなります。
開口部(窓・玄関)・壁・屋根・換気から熱は出ていきます。しかし、日射取得や内部熱取得によって暖めることが出来ます。また、人間一人は、100wほどの熱を出しています。
パーティーなどをすれば暖を取ることができます。
パッシブハウスの場合でも、適度な暖房は必要です。
開口部25% 壁25% 換気20% 屋根15% 床5%
熱取得(日射と内部と暖房)暖房は、0ではありませんが必要です。
開口部の断熱をしっかりすることが重要です。
開口部から熱が逃げて行き暖房が大きく必要で、夏は開口部から多くの熱が入り多くの冷房が必要になります。
開口部(窓)から50%以上の熱が出入りしているため、まず窓を強化する必要があります。窓を改善するには、枠をアルミから木製や樹脂に変えてガラスをペアかトリプルに替えることです。他を断熱しても窓を改善しないと効果は限定的です。
ガラスとガラスの間に適度な空気層を取りアルゴンガスやクリプトンガスを入れ金属皮膜ガラスの内側に貼ることで断熱されています。
真空ガラスもありますが、あまり良くありません。気圧により窓を大きくすることができません。そのため、窓枠や窓と壁の接続面積の比率がガラスと比べ多くなるので熱損失が大きくなります。
同様に、大きな面を小さな窓で分割すると、窓枠の割合が大きくなり熱橋により熱損失が大きくなります。
熱損失低減率 | 双熱損失逓減率 | |
---|---|---|
ペアガラス | 50% | |
Low-E | 20% | 60% |
アルゴン | 45% | 80% |
トリプル | 50% | 89% |
クリプトン | 20% | 91% |
性能を良くしていくと、性能が良くなる割合は小さくなりそれに反して値段は上がります。
暖房を多くして無暖房な住宅を創ること可能ですが、大変コストが掛かります。
設備投資とランニングコストの計算する事によって建築詰めてゆくことを、パッシブハウスのコンサルタントは行います。
コスト計算をすると設備投資としては、1.6年で回収できますが、25年・30年しか持たない家では、省エネ住宅のような設備投資をしてコストの計算が合うのか問題が残ります。
何をしてもCO2は出ます。
排出量に20倍の差があります。
前回の高橋さんの話にもありましたが、日本の建物の断熱性能は極めて低く、日本では地球の2,9個分の資源を使っている。このようなことを考えると茅野さんの指摘されるように住宅は、市なり県が耐久性のある省エネ住宅を供給する事は是非必要であると思います。
今までのように作っては壊し作って壊しを繰り返す家の作り方は、環境的にも経済的にも限界を迎えています。日本の戦後の家は、極端に耐久年数が、短く25年ほどです。ドイツやオーストリアでは、住宅は木造建築が主流です。木は断熱性能にも耐久性にも優れた素材です。環境に負荷をかけない工法と素材使用が望まれます。
日本のほとんどの家の窓は、アルミの枠が使われています。Brierlyさんの提示された表を見ると木とアルミの伝導率の差が1400倍あります。まず窓を強化することは、CO2削減にもコスト削減にも健康を保つためにも有効な手段だと分かります。
個人レベルでも、国・県・市レベルでも出来ることをやらないと地球も日本も心配です。(安曇野市・70代・丸山雅秋)
第一部では、信州大学経法学部の皆さんのアイデアと聴き手との意見交換が大変勉強になりました。現状、課題を明確にしたうえで出されたアイデアは、多少の課題点は残るものの、実現の可能性が高いと思いました。
第二部では、専門的なお話を分かりやすくしてくださって理解しやすかったです。質疑応答と二部の先生方のお話の時間がもう少しあれば嬉しかったです。(松本市・10代・前田沙季)
これからの時代を担う学生たちの積極的な取り組みにエールを送ります。ゼロカーボンを目指すため、行政、市民が一丸となる必要がありますが、SDGsを達成するためには高度経済成長がもたらした過剰生産と消費を抑えることだと考えます。すなわち”もったいない”や”ずくを出す”→身体を使う=健康 を実行することでしょう。今は文明機器に恵まれ、快適な生活に慣れている人には難しいことですが、多少時間を要しても”ずくを出す”行動に挑戦することもこれからは必要になるでしょう。
地球の資源は有限ですが、自然に逆らうことなく共存すれば、自然の営みはエンドレスで恵みを与えてくれます。今後、「資源を守るためにどうしたら地球と共存したらよいか」というテーマを希望します。(松本市・80代・村山忠勇)
安曇野市の西の山ぎわに、再生可能エネルギー博物館を創ったらどうかと思っている。
小水力発電など再生可能エネルギーに関する知識を得られるところとしての意義だけでなく、省エネなどの教育啓もう的な要素を持たせつつ、安曇野市が模範的な、エネルギーの地産地消を求めていることをアピールする観光施設の役割、小中高校生などの修学旅行の対象地になってほしい。(安曇野市・70代・峯岸芳夫)