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ご挨拶

塾長 松本猛

日本は戦後、疲弊した世の中を復興し、豊かな国を作るために人々が必死で努力し、世界が驚くほどの経済成長を実現させました。しかし、この社会の動きは、経済成長を追及するあまり、効率がすべてに優先され、あらゆる物事の価値を金銭ではかるという風潮を生み出しました。

お金があれば、便利で文化的で幸せな生活ができるという価値観は、人々を経済が集中する都市部に集め、その結果、農村や山村をはじめとした地方の過疎化が一気に進みました。生活の都市化は地域コミュニティーの崩壊につながり、人間が長い時間をかけて築いてきた自然と共生する文化も急速に失われつつあります。

都会の生活はたしかに華やかで、電化された生活は余暇を生み出しましたが、同時にさまざまなものを失い、矛盾もはらんでいました。電力によって維持されてきた快適な生活は、電力供給制限という事態一つで、どれほどもろいものなのかということを、私たちに知らしめました。
東日本大震災によって起こった原発の問題、電力の問題は、私たちに立ち止まって「もう一度、人間の生活を考えろ」と言っているように思えてなりません。

戦後、日本には大きな価値観の転換が起こりました。個人は国のために命をささげるのがあたりまえという軍国主義の考え方がひっくり返り、人間は他の国の人も、男も女も平等で、一人ひとりの人権は尊重されなければならないという民主主義の考え方が広まりました。これは大変な価値観の変化でしたが、実は今、私たちはそれに匹敵するくらいおおきな問題に直面し、価値観の転換を迫られているのではないでしょうか。

効率や便利さだけが価値なのか、文明とは何なのか、自然の一部としての人間の幸せはどこにあるのか、地球の将来はどうしたらいいのか、考えなければならないことは山ほどあります。

信州自遊塾でいっしょに考え、語り合いましょう。

●松本猛(まつもとたけし)
1951年生まれ。美術・絵本評論家、作家、絵本学会会長、横浜美術大学客員教授、ちひろ美術館常任顧問、美術評論家連盟会員、日本ペンクラブ会員。1977年にちひろ美術館・東京、97年に安曇野ちひろ美術館を設立。同館館長、長野県信濃美術館・東山魁夷館館長を歴任。著書『安曇野ちひろ美術館をつくったわけ』(新日本出版社)『東山魁夷と旅するドイツ・オーストリア』(日経新聞出版社)、『母ちひろのぬくもり』(講談社)、『安曇野ふわりふわり』(信濃毎日新聞社)。絵本に『ふくしまからきた子』『ふくしまからきた子 そつぎょう』(絵・松本春野 岩崎書店)、『白い馬』(絵・東山魁夷 講談社)、『海底電車』(絵・松森清昭 童心社)など。
松本猛 公式サイト   http://www.takeshi-matsumoto.jp/
松本猛 公式ブログ   http://www.takeshi-matsumoto.jp/blog/

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