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〈レポート〉第32回講座「ドイツから学ぼう」第1回「ドイツの暮らしと日本の暮らし」

2018.05.06 | カテゴリー:講座の記録

【2018年4月8日(日) 松本市中央公民館 Mウィング】
2018年の講座のメインテーマを「ドイツから学ぼう」とし、長野県日独協会様と共催で、年間通して4回のシリーズで講座を開いています。その第1回を4月8日に行いました。この日のテーマは「ドイツの暮らしと日本のくらし」。長野市や、遠方からの参加者も多く、定員を超える110名の皆さまにご参加いただきました。
講座の内容は新聞記事で紹介されるなど、メディアにも大きく取り上げられました。

第1部~ドイツで学び、生活して~

第1部では豊橋技術大学名誉教授の山本淳さんに「ドイツで学び、生活して」と題してお話しいただきました。
山本さんは1968年、19歳の時から1981年までドイツを中心に欧州に滞在。その間ミュンヘン、西ベルリン、ロンドン、チューリヒの大学で哲学、民俗学、美学を学ばれました。中でも8年間のドイツでの生活から山本さんが感じてきた”ドイツ的なるもの”を、キーワードを挙げて説明頂きました。

①音楽の浸透・・・ドイツでは教養的趣味が中産家庭に浸透しており、特に音楽は国民生活に浸み込んでいる。家族で室内楽合奏したり、シェアハウスで音楽を演奏することが日常生活に普通にある。

②旅行好き・・・”どこか遠くへ行きたい(Fernweh)”がドイツ人のDNAに組み込まれている。分厚い旅行書を片手に海外旅行を始めたのはドイツ人。”旅慣れた、世界の事情に通じた(bereist)”人に対する尊敬の念がある。

③討論・議論好き・・・討論議論が学びの一つの形態として定着。大学博士号を取得するためには公開討論を4時間行わねばならない。シュタイナーなどの教育制度には街のおばさんでも一家言持っていた。親子間での議論・話し合いはドイツでは普通で、これは教育が影響していると感じる。ドイツに慣れた後、日本に帰国すると周囲からは生意気と思われ、それが逆カルチャーショックだった。

また、戦後のドイツ人にとって、大戦中のNS(Nationalsozialisms、いわゆるナチス)政権の存在をどう理解整理し、今後に生かしていくのかは大きなテーマ。NS体験に正面から向き合い、失敗から学び取ろうとしてきたのはむしろ戦後世代。NSには良い点もあったなどと語る年配者もおり、これが戦中世代との世代間対立、確執を露出させた。
いずれにせよ、過去の汚点を注視するドイツ人の姿勢が市民の政治意識を高め、政治を強くした。

第2部 トークセッション

第2部は「何がちがうの?日本とドイツ・総論」と題してトークセッションが行われました。パネリストは第1部講師の山本さんと、丸山雅秋さん、ハインリヒ・トマス・ロニーさん。コーディネーターは松本猛塾長が務めました。

セッションでは主に仕事面、教育面、原発問題に対する日独の考え方の違い、豊かさに対する認識の違いについて話題になりました。
各パネリストからの発言を要約します。

丸山雅秋さん(彫刻家 長野県日独協会専務理事 安曇野市在住)

  • ドイツと比較してみると、日本人には対話をする習慣がない。
  • 仕事重視の傾向があり、個人の生活が疎かになっている。ドイツには職場同僚と飲みに行く(いわゆる飲みニケーション)習慣はない。ドイツ人はプライベートな時間を大切にしていることに大きな豊かさを感じる。
  • 日本は芸術に対する理解が低く、家の中に自分を示す文化的なもの(絵画等)が少ない印象だ。
  • 古いものを直して使うことを尊び、不便を楽しんでいるのはある種の豊かさだと思う。
  • 環境問題・原発問題について感じることは、ドイツは理想・ゴールを定めそこに到達するための方法・スケジュールを立て進んでいく。日本にはそのようなビジョンは薄く、現実に対処する対応をしがち。

ハインリヒ・トマス・ロニーさん(ドイツ語翻訳者 旧東ドイツケムニッツ出身で日本在住8年 松本市在住)

  • ドイツと比べて日本は総じて住みやすいと感じているし、日本には良いところが沢山あるのは事実。全ての面でドイツに倣う必要は無く、ドイツの良い面があれば取り入れればよい。
  • 仕事と家庭を考えるとドイツ人の方が家庭を大事にする印象。職場と、家庭・個人という2つのアイデンティティーを使い分けている。日本では職場が家族みたい。公私一体に感じる。ドイツが優れているとも言いきれず、バランスが大事。
  • 日本人の方がコミュニケーションが表面的と感じることがある。
  • ドイツの教育が優れていると言われることが多いが、スパルタ教育で強制している面もある。罰金を科してごみを捨てさせないようにする等、強制はドイツのキーワードかもしれない。

山本淳さん(第1部スピーカー)

  • 仕事面ではドイツの方が効率的と感じる。仕事が同僚間で共有されていて、誰が休んでもカバーしあう体制が出来ている。
  • 日本では家庭・自宅はよりプライベートで閉ざされた領域。ドイツの方がオープンな印象。友人を自宅に招くことはいたって普通のこと。
  • 豊かさを考えるとき、日本人は金銭的価値、ドイツ人は時間的自由に重きを置いている。欧州人は給料を減らされてでも余暇・趣味を楽しむことを重視する。
  • 教育面ではドイツが優れているとは言い切れない。ドイツでは基本的にスパルタ教育であり、馴染めない子供がいるのも事実。

(記録:富取)

参加者の感想 抜粋

ドイツ人及びヨーロッパ人の価値観が日本人といかに違うか、民主主義とか個人主義が徹底している国と対極にあるのが日本であることを改めて感じさせられた。
多くの日本人が日本の伝統や常識だけを知っていて、他国のものの考え方に関心がないし、知らない。だからこういう講座を聞くのは良い事だと思う。(松本市・70代・女性)

人間として生まれてきて、その本来のあり方、生き方を、日本とドイツを通して自分なりに考えてみることができました。
原発については、不便であることが豊かさでもあると考えられる思考形態が素晴らしいと思います。政治についても、教育のひずみなのか、日本は討論の土壌ができていない。国民も他人事のようで討論しようとしない、本当に淋しい国だと思います。日本人は本当に豊かに生きているのだろうかと改めて考えさせられました。(松本市・60代・女性)

ドイツ人は芸術や趣味を大切にし、自分のものにしているということが印象的でした。豊かさの違いも知り、日本でも、もっと長期休暇や自分たちの暮らしを大切にする習慣が社会的に認められたらいいなと思いました。
実際にドイツを見た人の話はリアリティがあって、聞いていてとても面白かったです。同時に、自分自身でもドイツに行って、実際に見聞きしたいなと思いました。また、ロニーさんがいたことで、日本のいいところも改めて知らされ、日本のことももっと知りたいと思いました。(松本市・20代・女性)

動画

新聞記事

中日新聞 2018年4月10日付



市民タイムス 2018年4月10日付


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