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〈レポート〉第31回講座「マサイ族に学ぼう~アフリカの大地からマサイの戦士がやってくる」

2017.12.02 | カテゴリー:講座の記録

【2017年11月6日(火) 信濃むつみ高校1階ホール】

はるばるアフリカ、ケニアからマサイ族のリーダー的存在のジャクソン・オレナイヨ・セイヨさんと、夫人でツアーガイドの永松真紀さんを迎えての講座「マサイ族に学ぼう」は松本市南松本の信濃むつみ高等学校ホールで開き、113人(会員20人、学生40人、一般53人)が詰めかけ、熱心に耳を傾けました。
また、新聞やテレビなど3社の取材が入り、ニュース映像や新聞記事で紹介されるなど、メディアからも大いに注目されました。

講座の記録

まずは真紀さんが、日本から遠く離れたケニアについて、生息する数々の動物たち、世界一の紅茶の輸出国であることや、マサイ族は野生動物を捕る狩猟民族だと思われがちだが、実際は牛、ヤギ、羊など家畜と共に暮らす牧畜民族であることなどを、映像を交えて紹介しました。

一夫多妻制のマサイ族。ジャクソンさんの家族は20人ほどで、皆で協力して500匹を超える家畜を育て、管理しています。
マサイ族は一般的な年齢ではなく、人生を「少年」「青年(戦士時代)」「大人」「長老」の4つの段階に分け、節目には伝統的な儀式を行い、それぞれの世代に即した生き方をしているのが大きな特徴。幼児期から放牧の勉強を始め、10歳ぐらいになると一日12時間かけて放牧に出かけるといいます。
彼らは朝、牛乳を飲んで出かけ、昼には野生の木の実や、蜂の巣のある場所を教えてくれる鳥を独特の口笛で呼んで、ハチミツを見つけてお腹を満たすのだそうです。そうした子どもたちが200頭もの牛をコントロールする方法もまた、口笛。「真っ直ぐ歩きなさい」「立ち止まって草を食べなさい」などを、歌うような口笛を使い分けて指示するのだそうです。口笛一つで鳥や家畜たちを扱うなんてまるで魔法使いのようです。

「戦士時代」は大人になるための修行期間で、毎日牛を解体して牛の身体の構造を学び、肉を食べて身体を鍛える。厳しい修行期間であると同時におしゃれも楽しめる。少年たちが憧れる、人生で一番華やかな時期。テレビでよく見るジャンプするマサイ族の姿は、戦士時代の卒業の儀式の一コマ。厳しい修行に耐え、野性味を帯びた戦士たちは、ライオン狩りでその勇気と強さを証明する。棍棒と槍で野生のライオンと闘い、仕留めることで戦士時代を締めくくる。厳しくも華やかなこの儀式は人生のハイライトであるといいます。
真紀さんがジャクソンさんと出会ったのもまさにこの儀式の時(2003年)。その時のジャクソンさんの印象を、「ただ怖かった」と表現しました。

その後、長老から「あなたをマサイ族に迎える」と話があり、真紀さんはジャクソンさんに嫁ぐことになりましたが、マサイ女性の仕事は水汲みや乳搾り、家づくりなど。
当初は「好きなツアーガイドの仕事ができなくなるのでは?」との不安もあったといいます。しかし、「マサイの文化を尊重してほしいが、あなた自身の生き方を変える必要はない」と言われ、「美しい文化を持つマサイの一員になることができ、自分自身の生き方も尊重してもらえることは素晴らしいと感じ」結婚を決めたといいます。

マサイの伝統的な衣装とアクセサリーを身につけて登場したジャクソンさん

ジャクソンさんは、最近のマサイ族の暮らしの変化について、「雨が降らなくなったため、十分な牛乳が採れず、穀物を食べるようになった。食生活の変化は新しい病をもたらす。交通網などの“発展”は放牧地の減少につながり、生き方の変化を余儀なくされている。変わりゆく生活、世界に対応するために、一般的な教育も必要になった」と言い、学校教育にも力を入れています。

マサイにとって一番大切な文化、子どもに真っ先に教えることは“年配者を敬い、他者に尊敬の気持ちを持つこと”なのだといいます。真紀さんは、学校づくりや、スタディツアーを企画実施してマサイの文化を広く紹介することで村に貢献しているといいます。

質疑応答

「日本の印象は?」の質問にジャクソンさんは、「先進国でビルだらけと思っていたが、自然が豊かなことに驚いた。それを大切にしていると感じる」と言い、また「日本の、多様な文化を受け入れる姿勢はマサイと共通している」とも。

「動物園の動物を見てどう思うのか?」という問いには、「野生の動物は自由だけれど厳しい環境で生き抜かねばならない。動物園の動物たちは自由ではないが安全な環境でいつでも餌をもらえる。それぞれの役割がある」という考えを語りました。このほか、子どもは大人たちを畏れ敬っているという親子の関係について、異民族間の結婚についてなど、多くの質問が挙げられ、会場は活気づいていました。

会場いっぱいに詰めかけた参加者は夢中になって聴き入りました

先進国の発展を目の当たりにしても、伝統的な生き方に揺るがない誇りを持って生きるジャクソンさん。“土地は誰のものでもない”、“生き物はそれぞれ役割を持って存在している”といった考え方をはじめ、自分たちの文化、生き方に誇りを持つと同時に、他者の文化や生き方を尊重する姿に、わたしたち人類が忘れてはいけない大切なものを見ました。

【新聞報道】 11/7 信濃毎日新聞、11/2 松本タウン情報、11/3 週刊まつもと 他
【テレビ報道】 テレビ信州 11/6 夕方ニュース、NHK 11/7 早朝ニュース

(記録:松本照喜)

参加者の感想

素晴らしい講演会でした。ユーモアを交えた話に大満足でした。マサイ族の“長幼の序”を日本でももっと大事にしたいものと思う。文明、文化とは何かを再認識しました。今の日本は果たして文明国なのか?芭蕉の“不易流行”(時代が変わっても変えてはダメなものがある)を感じました。ありがとうございました。(松本市・男性)

(ジャクソンさんは)“マサイ100%で武士のような人”というのがとてもわかりやすかった。動物も子どももとても愛していると思った。マサイのようにメチャメチャ文化に自信があるという余裕、度量が人生に必須だと思った。(松本市・男性)

 子供の頃から憧れていたアフリカでの生活のお話が聴けて、とても感動しました。日本とは全く違う生活、そして、イメージともまた異なる実際の暮らしに驚きましたが、人を敬う気持ちを大切にするマサイの考えには共感しました。ぜひ実際にアフリカに行って、自分でも体験してみたいと思いました。(匿名)

 電気も水道もトイレもなく、周囲の野生動物と「戦士の年代」には戦いながら、一家族で百頭以上もの牛を放牧する暮らしは現代日本とあまりにも違います。その生き方に誇りを持ちながらも、日本などの他の文化を批判することはなく、例えば、自由のない動物園の動物たちにもそれぞれの「役割」や良さがあるなど、他者の生き方を最大限尊重する姿勢に感銘を受けました。(松本市・男性)

世界のどこかに、まだ自然の一部として生きている民族がいてくれる安堵感と、世界が経済を優先し続けていることで起きる温暖化と異常気象によって伝統的な生き方を続けているマサイのような人たちの暮らしまで脅かされてしまう現実に胸が痛みました。(松本市・女性)

 


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