【2013年11月30日13:30~16:30 於:三郷公民館】
16講座では、「教育」をテーマに、長野県青木村での教育実践で注目された上田市立北小学校校長の小岩井彰先生を講師としてお招きし、「人とつながる力(社会力)を育てる」というテーマにてお話いただきました。
その後、テーマ別に3つのグループに分かれ、グループトークとして参加者に日頃の子育てや教育への思いを語っていただきました。
信州自遊塾では、本講座のねらいを以下のとおりと考えています。
小岩井先生には、1時間半という時間では納まり切れないほど、内容の濃い講演をしていただきました。地域の皆さまをはじめ、保育関係者や小学校関係者が来場され、小岩井先生の講演に熱心に耳を傾けていたのが印象的でした。
上田市立北小学校校長、地球クラブ代表。1956年長野県生まれ、1982年長野県小学校教諭になる、タイ国カオノアチュチ低地熱帯林保護プロジェクト参加。
1995年「地球クラブ」設立、タイ国の熱帯林保護や就学支援活動及び長野県青木村で子どもたちのための自然体験プログラムを展開。長野県教育委員会文化財・生涯学習課、長野県青木村教育委員会教育長を歴任。「地域の教育力」「社会力」を提唱。
今の大人は子どもたちを将来どんな大人にしたいのか。そのために私たちは今、何をすべきかを真剣に考えなくてはならない。学力向上、体力向上による数値的なものや、学校的な価値観で本当に子どもは育つのだろうか。
子どもは未来からの預かりものであり、未来そのもの。不登校の問題など目先の現象を追い、大人の視線で次から次へと対策を講じることが、子どもにとって本当に良いことなのであろうか。
教育法における教育の目的とは、「社会の形成者として必要な資質を備えた国民の育成」とある。社会の形成者の育成とは、簡単に言えば、自立した(自分で飯が食える)大人に育てることを意味する。
果たして、これまで社会の形成者に育てることに成功してきたのか。大卒のニート数、成人のひきこもりの増加や児童虐待の相談件数を見ていると、とても成功しているとは言い難い。
ある保育者によると、今の子どもは、ままごと遊びにおいて、お母さんやお父さん役になりたがらない。小言を言い続けなければならないことや、セリフ自体が存在しないという理由からである。一番人気は「ペット」役で、大事にされたいという気持ちの現れからである。このような子どもが、将来、社会の形成者になるとは思えない。
人間的な情緒や感情に乏しく、その欠落を「面白さ・おかしさ」と「暴力」によって埋める傾向があり、社会学的には「非社会化」が進んでいるといえる。このような現象は、お笑い番組や暴力的な内容が多い現代のテレビ番組に象徴されている。非社会化として、以下のような現象が挙げられる。
では、なぜ非社会化の現象が起こるのか。その原因は、人との接触不足によるものだと考えられる。昔は、向こう三軒両隣と言われるように、近所づき合いを通じた濃厚な人付き合いがあった。小岩井先生自身も、お湯が貴重だった時代に「もらい湯」を経験した。今の子どもたちは、大人と接する機会が極端に少ない。
一方、これからの子どもたちは、経済力、宗教、民俗、文化などの違いによる格差拡大や紛争問題、人口増に伴う資源、食糧、水不足の問題や環境汚染の問題に直面していく。現代よりも困難な問題がのしかかる時代を生きていかなければならない。
非社会化の現状、そして環境的に今後より困難な時代を生きなければならない子どもたちに、今何が必要なのか。
これらの能力を身につけるために、何を考え、何を行うべきか。以下3点が重要。
子どもたちは、遊びの中から、そして人との触れ合いの中から、「かけがえのない自分」への気づきと「意欲」を育てる。自然の中の棒きれ一本で遊び尽くすことで、想像力、創造力や冒険心を養う。人との触れ合いから生じるトラブルや喧嘩によって、解決する力を養う。
大人は、本来、子どもが持っている能力を信じて、「待つ」ことの重要性を理解しなければならない。教育の現場においても、子どもを大人の価値観でこねくり回すことなく、未来へ送りだすことが重要と思われる。
最後の30分間、小岩井先生は映像写真を用いて、青木村の教育長時代に実践した「子どもたちに人とつながる力」を身に付けさせる教育のお話をしていただいた。大学生からお年寄りまで、さまざまな年代の多様な人々がかかわり参加していた。先生は「一人の子どもを育てるには村一つが必要だ」と語っていたのが印象的であった。また、現在校長をされている上田市立北小学校での「遊び」を中心とした取り組みについて映像を用いて説明いただいた。ここでは子どもたちの明るい笑顔が印象的であった。
地元三郷地区での実践、地域と学校がつながり協力しながら子供を育てていくために何ができるのか。焦点を絞って話し合いました。
まず大人から子供たちに「おはよう」「こんにちは」+ひと声。明るく挨拶しよう
小学生の野外活動を、安曇野の奥地でやっている。夫婦で、移住した土地がすばらしく、自分たちだけでは惜しいのでクラブを始めた。月2回、月ごとにプログラムを作ってやっている。
何で遊んでもいい「自由時間」があり、それが大事。
「やりたい子はやる、やりたくない子はやらなくていい」というスタンス。
社会性を養うために一つやっていることは、「どじだなあ」などと言いながら許す心により、人に自分の失敗を見せるのを恐れないようにしている。
わざと下手に歌うと、「浜、下手だなあ。オレ、もっと上手く歌えるよ」と子供が歌い出す。「こういう風に歌うんだよ」と教えるよりいい。
小岩井先生の実践と教育観をさらに深めて考えるグループです。安曇野市明科で、野外活動を通して幼児教育に取り組む「くじら雲」の代表、依田敬子さんにも加わってもらい、自然の中で学ぶことの意味、自然と人間、人間と人間の関係をどう作っていくかについて話し合いました。
実践しているのはドイツ北欧でさかんな幼児教育法。自己肯定感育むことを目的に、できるだけ子供達主体の活動している。親はいつでも参加できる。幼児期、感覚を育む大切な時期。自然のなかで多様な事象に関わることで、自然に対する畏敬の念も育つ。親子でのお月見など、昔はしていたが、いま家庭ではしなくなった行事を取り上げている。
ドイツの森の幼稚園のデータでは、自然の中で活動しながら育った子どもたちはコミュニケーション能力や対応能力が身につくとある。年代を越えてふれ合うことで、多様で複雑な人間関係を経験することができる、また、毎日違う気象条件のなかで遊ぶことによっても対応能力がつく。そのような基礎的な人間の能力をつくっていくこと大切。その方向性は正しいのだろうが、いまの日本のなかでそういう子供たちがうまく生き延びていけるのかが問題。
学校だけでなく、自然のなかで年齢の違うこともたちが自由に遊び、交流できる場を地域のなかにたくさんつくっていくことが多様性のある可能性を秘めた子供を生み出していくことになるのではないか。