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〈レポート〉第13回講座-体験「ソバの栽培体験 のらしごと 種まきから収穫まで+ソバ打ち体験」5回シリーズ(完結)

2014.01.22 | カテゴリー:講座の記録

自然豊かな信州に暮らしていても、自分で育てた野菜や穀物を食べている人は少ないのかもしれない。日常をはなれて、土とふれあい・会員同士でふれあう。汗を流して育てた作物を食するという素朴な行為を通して何かを感じる機会になればと、大人のための農業体験としてソバの栽培体験を企画しました。

1回目7月28日(日)

連日の猛暑の中でも薄曇りの過ごしやすい天候で、午前は畑で種まき・午後は翻訳家小梨直さんのミニトークを森の木陰で行いました。

 松本市平を東に見下ろす波田の高地にある広さ5畝(150坪)の畑に1㎏の種を蒔きました。13人での作業は思いのほか早く終わって、自然と畑の脇に2~3のグループができ、雑談の花が咲きました。朝の八戒事務局長の挨拶の中の、『近くにいることで、自然体で感じあえるような会員同士の交流ができれば…』の言葉通り、肩の力が抜けた貴重な「だべり」の時間だったように思います。その後、森の木陰に場所を移してお昼を食べながらゆっくりと交流を深めました。

(参加者の感想)

当日は簡単な作業でしたが、日常生活で土に触らない私にとっては非日常的でとてもおもしろかったです。
また、作業の後、畑の横で話した何気ない会話や、その後の自己紹介の時の、みなさんのお話から、それぞれに自分たちの大切にしているものがあるのだ、ということが伝わってきて、とても興味深く聞かせていただきました。

40代女性 Iさん

ミニトーク

午後から新たに3人が加わり、翻訳家・小梨直さんのミニトークを行いました。

小梨さんは13年前に東京から池田町に移住、中学生の息子さんとの3人家族。翻訳の傍ら家庭菜園で自然農法を模索したり、納豆や燻製を手作りしたりと田舎暮らしを楽しんでおられます。自遊塾との出会いは、映画「モンサントの不自然な食べ物」を観に来られたことがご縁で知り合い、今回のミニトークの実現となりました。ご自身の半生や仕事をする上で大切にしている価値観なども語ってくださいました。

東京時代は小説・エッセイ・絵本などの翻訳をしていたが、移住してからは、自分が読んでみたいと思う本の中から持ち込み企画をするような仕事に変わった。そのきっかけになったのが「食べることも愛することも耕すことから始まる-脱ニューヨカーのとんでもなく汚くてありえないほど美味しい生活」という長いタイトルの本との出会いだった。私たちが思うアメリカとは、マクドナルドを食べ、ウォルマートで大量のお買いもの。グローバル化で経済至上主義的なイメージを持ちがちだが、実は私たちと同じような悩みを抱えている人たちがたくさんいて、「どうして近くで採れた(獲れた)食べ物を食べちゃいけないんだ」という同じような疑問を持って行動を起こしている人たちが大勢いる。そのことを上手に書いているこの本に出会ってぜひ日本でも読んで欲しいと思った。

今は、「雑食動物のジレンマ」という本を手掛けている。コアラはユーカリしか食べないから悩まないが、雑食の人間は何でも食べる。悪いものもいっぱい食べている。だから何を食べるかに悩む。著者は人類の食のあり方についてひとつずつ体験しながら書いていて、フードチェーン(食物連鎖ではなく、食の供給システム)の問題提起もしている。大人向けの翻訳本はすでに日本で出ているが、私は中学生以上を対象によりわかりやすくまとめたキッズバージョンの企画の持ち込み、来年の出版に向けて動いている。

食や環境問題についての翻訳に取り組んでいるにあたり、40年前に書かれた有吉佐和子の「複合汚染」を読んだ。薬剤や汚染物質は40年前と今とでは違うけれど、日本の抱える問題の本質は何も変わっていない。この時に問題を自覚していた大人が方向転換していてほしかった。

北海道の帯広農業高校を舞台にした、高校生が現代の農業と向き合う中での葛藤を描く漫画「銀の匙」もおもしろい。(息子も読んでいる)作者が酪農家の四女で、リアルに描かれていると思う。

翻訳家としては地味な労力を積み重ねたその本が売れないとやっぱりモチベーションが下がる。けれど、導かれるようにその本を手に取り、読んで、次の日から行動が変わっていく…。そうゆう本を日本に紹介していくことが私の役割というか使命なのかも、と最近は思えるようになった。

(参加者の感想)

にぎやかに種まきした後、涼しい森の中の屋外での交流会&ミニトークは、とても有意義な時間でした。
書籍の翻訳者は長野県内ではまれで、直にその話を聞けるのは、貴重な機会だったと思います。
横の沢で、樹にくくりつけて流水で冷やした波田のスイカを頂いたのも忘れられません。

50代男性 Mさん

質疑や参加者の意見などディスカッションしながら、沢で冷やしておいた波田名産のおいしいスイカを食べて3時に解散しました。

2回目 8月17日(土)

高地でも猛暑厳しい中でのらしごとを終えた後、森の木陰で「宮沢賢治の世界」を探り、味わうようなひと時を過ごしました。

種まきから3週間。ソバは30㎝ほどに成長して、中にはもう固いつぼみが付いているものまであり、成長の速さに驚きました。13人が参加して、間引き・草取り・土寄せなどの作業を1時間ほど行いました。若者でも音を上げるような強い日差しの中で、もうすぐ80歳になる中野名誉塾長と70代の会員さんが最後まで畑に残って作業をしておられ、厳しい時代を生きてこられた逞しさを見る思いがしました。

作業の後、木陰に場所を移して「宮沢賢治の童話と詩の探求」と題して考察を深める時間を作りました。<法華経信者であり宗教家の宮沢賢治>という視点から『雨ニモマケズ』と童話『なめとこ山の熊』を哲学者・梅原猛さんの本を引用して賢治の気持ちや背景について想いを巡らせた後、長岡輝子さんの朗読をCDで聴きました。

最後に松本塾長が、『雨ニモマケズ』の詩が戦争中に利用されていた歴史や、マルクス主義やアンデルセン童話に影響を受けていたことなどを話され、探求に深みを与えてくれました。盆休み最後の土曜日とあって、2回目は昼の解散としました。

(参加者の感想)

木陰で学習会
蕎麦栽培2回目の作業は間引き、草取り、土寄せでした。傾斜地の蕎麦畑からは広々とした眺望がすばらしく、気分爽快。種を蒔いたすぐ後にタイミングよく雨が降ったので、発芽は上々。青々と成長した茎はたくましく、太くてしっかりしている。この分では豊作が期待できそうだ。秋の収穫が楽しみ。蕎麦の生育期間は非常に短く、間もなく花が咲くだろう。
皆で行うので能率があがり、農作業は1時間で切り上げた。柔らかな若芽はおひたしにして食べられるので、間引きしたものは皆が全部持ち帰った。
木陰に青いビニールシートを敷き、学習会となった。携帯用椅子がたくさん並べられた。私は腰痛なので座らせてもらうことにした。涼しい木陰での学習会はすがすがしく、本当に気持ちがよい。照喜さんが差し入れてくれた甘いものにも手が伸びる。
録音された宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の朗読が始まった。私は小学生の時暗証したことがあるので、素直に聞けた。ただ、女性の朗読は抑揚が信州人にとっては違和感があり、これが岩手の言葉なんだと初めて知った。
宮沢賢治についての久保田さんの説明の後、松本さんが解説を加えた。現地に行って体験した話を興味深く聞いた。私は宮沢賢治も石川啄木も特に研究した訳ではない。労働運動の師で碓田のぼるさんは石川啄木の研究者であり、何冊も本を書いているので、私も読んだ。地元岩手では貧しい家に生まれた啄木の方が人気があり、裕福な家に生まれた賢治はあまり人気がないと聞く。私は貧しい農家の生まれなので啄木の心境は理解できる。しかし、私は啄木よりは賢治の生き方に興味を持つ。普通に生きようとすれば苦労をせずに生きられただろうに、なぜ貧しい人たちのために生きようとしたのだろうか。自分の理想に向かって誠実に生きようとした賢治に魅かれるものがある。

70代男性 Kさん

3回目 9月29日(日)

秋晴れの中、午前中に刈取りを終わらせ、午後は波田の水源でもある黒川林道の散策に出かけました。

7月28日に種まきしてからちょうど2か月での刈取り、ソバの成長は本当に早い。なにかと行事の多い季節のためか参加者は9人で、この人数では少しハードな作業だったかもしれない。途中アクシデントもあったけれど、全員が汗を流してガンバったおかげで午前中に予定の作業を終えることができました。

昼食の後、島々の先から入る黒川林道に向かった。車を止めた道の駅には2個で950円もする黄金桃という名の桃やマツタケなど季節の物が売られていました。
まだ紅葉には早い時期でしたが、青い空は高く、樹々からの木漏れ日が清々しく、沢の音を聞きながら2時間ほどトレッキングを楽しみました。道端の野生の桃の木が小さな実をつけて甘い好い香りを放っていた。かじってみると…残念な味。この桃から黄金桃にまで、進化のプロセスには考えさせられるものがありました。
午前も午後も動きづめで肉体的にはタフな一日になったけれど、みんな笑顔で3時過ぎに解散しました。

(参加者の感想)

3回目の刈取りは、予想していた以上の体験というか、「労働」でした。でも、運んでいく間にこぼれて落ちた穂の先の種が、なんとももったいなくて、一つ一つ拾っていく作業の、苦しいような楽しいような気持ちはやっぱり{初体験}でした。次回の体験も楽しみです。

40代女性 Iさん

先日の収穫体験では、心地よい汗をかかせていただきました。
波田に引っ越して1年たちましたが、土肥農園さんより上には足を踏み入れたことがなかったので、新鮮でした。
お天気がよく眺めを楽しみながら作業できました。
休憩時には、お茶や果物などを出していただきありがたかったです。

30代女性 Iさん

4回目 10月14日(月)

刈取りから2週間、秋晴れが続きよく乾いたソバの脱穀と、手回しの石臼を使って「粉ひき体験」をしました。

畑でののらしごとの最後の回は、参加者11人で脱穀をしました。大方の予想通り今までの中で一番ハードな回となり、午前は足踏み脱穀機と棒でたたく班に分かれて脱穀。午後は藁くずなどとソバの実を分けるために何度かふるいにかけた後、唐箕(とうみ)にかける作業を行いました。終日の作業にもかかわらず参加者の皆さんの丁寧な脱穀で、1キロの種から32キロのソバの実を収穫することができました。畑での作業は全ての回でお天気に恵まれ、景色を楽しみながら気持ちの好い汗を流した楽しい時間でした。参加者の皆さん本当にお疲れ様でした、そしてありがとうございました。

のらしごとは、種を蒔き、育ち、実を結ぶまでには相応の時間がかかり、「人間の手」以上に太陽や雨、蜂や蝶といった自然からの恵みに育ててもらっていることを知識ではなく体験として感じるような機会になればと。そして、収穫後の脱穀作業や、その後もいくつもの「人間の手」を経てようやく私たちの口に入る「食べ物」になるプロセスも体験できればと、わずかな量でしたが石臼での粉ひき体験もしました。次回はいよいよ「人間の手」の見せ所、ソバ打ち体験です。

(参加者の感想)

1キロの種から32キロの収穫とはビックリ? 皆さんの努力の結果かなと…。今思うとあの時は午前中に脱穀を終わらせようと必死だったと思います。足踏みでの脱穀は、チョッピリ筋肉痛の後遺症が…でも楽しかった。仕事の仲間に話したら経験者がおらず、得意になって話してしまいました。収穫祭でゴチになるのが楽しみです。 自分は神奈川県川崎市から移住して1年半になります。これからもいろいろと見聞を広げ信州を堪能します。

70代男性 Hさん

5回目12月14日(土)

シリーズ最終回は、製粉したそば粉で「そば打ち体験と収穫祭」でした。のらしごと参加者のほとんどの方が集まって、恵みと収穫を喜び合いました。

「そば打ち体験」は三郷の一日市場公民館をお借りして、地域の方々にも参加していただき合計18人で行いました。講師には達人・中野名誉塾長と、さらにその上を行く中野先生のお友達の大輪さんに来ていただきました。デモンストレーションで全体のイメージをつかんだ後、各自そば打ちの実践に移りました。約半数の方が初体験だったにもかかわらずみなさん上々の出来栄えでした。最後にゆで方の指導を受けながら、それぞれ自分で打ったそばを試食しました。

夕方から運営委員の増田望三郎さんが営む「地球宿」に場所を移して「収穫祭」、参加者は子ども二人を含む15人。中野先生の打ったおいしいおそばと、合鴨農法で活躍したカモたちの鴨汁を食べながら、畑での思い出話や来年の抱負などを語り、親睦を深めました。

製粉して25キロになったそば粉は、そば打ち体験・収穫祭で使ったほか5回全て皆勤された方には1キロ、2回以上参加された方には500グラムのそば粉を分配しました。残りは販売して8400円の収入、講座活動資金の一部に充てさせていただきました。

(事務局の感想)

野良仕事後の皆さんのようすを垣間見たり、そば打ち講習会のお手伝いをするなかで、そば作りに関わってきた参加者の皆さんの充実感や収穫の喜びを感じた気がします。

特に、自ら育てたそばを自分の手でこねて打つ、その時の皆さんの表情は本当に楽しそうでした。自ら育てて、作って、食べる、一部の人にとっては当たり前のことかもしれませんが、その基本に触れることができ、感動しました。(T)

 

暑い夏の種蒔きや草取り、秋の刈り取りや脱穀を思い出しながらのそば打ち。懇親会で先生が打ったあまりにも美味しい蕎麦と、安曇野地球宿のこれまた美味しいアイガモ汁を頂きながら、スローフードの典型とも言える信州蕎麦の文化を一通り体験できた嬉しさをかみしめた夜でした。お陰様で、ソバの種まきからソバ打ち・ソバ三昧の食事まで堪能いたしました。(M)

 

自ら育てた穀物を食べるという一連の工程を新鮮に感じた方が多かったように思います。自然豊かな信州でも「農」と関われる人が少ないのかもしれません。3・11の震災から3年を迎え、あの時に感じた食べ物のこと、エネルギーのこと、暮らし方のこと、生き方のこと…日々薄れていく記憶の中で、何か再発見する機会であったなら望外の喜びです。約半年間の長丁場にご参加いただきありがとうございました。(K)


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